
イランとの戦争が60日以上続く一方、イランの権力の中枢が最高指導者室からイスラム革命防衛隊(IRGC)や国家安全保障最高評議会(SNSC)などの安保強硬派に移った説が浮上した。休戦後には対米交渉の有無を巡る政界内部の対立も再び浮彫りになっている。
これについて、表向きは戦時中に築かれた一枚岩の結束を維持しているが、内部では不透明な意思決定構造と強硬派の交渉反対が重なって、終戦交渉がより困難になっていると解釈されている。
最高指導者の不在と革命防衛隊の台頭
4月28日(現地時間)、ロイター通信は、2月28日にアリー・ハメネイ師が死亡後、イランで単一の最終政策決定権者が事実上不在になったと報じた。
ハメネイ師の次男モジタバ・ハメネイ師が後任の最高指導者に選出されたが、その役割は将軍や安全保障機関が策定した決定を追認する程度にとどまっているとの見方が強い。実権はSNSCを中心とする統合戦時指導部に移行しており、IRGCが軍事戦略のみならず、政治的判断においても主導権を掌握したと分析されている。
同日付の英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)も、米・イスラエルによる空爆の際に一致団結していたイラン政界が、停戦後に再び分裂の兆しを見せていると報じた。超強硬保守派の「パイダリ党」は、米国との交渉自体に反対しており、交渉の陣頭指揮を執るモハンマド・バーゲル・ガーリーバーフ議長への批判を強めている。
パイダリ党に所属するマフムード・ナバビアン議員は、現地メディアに「交渉は完全な損失であり、誰も交渉に加わるべきではない」と主張した。特に、イラン交渉チームが核プログラムを議題に含めたことを「戦略的ミス」と批判した。イラン議会の議員290人のうち261人が27日に対米交渉チームを支持する声明を出したが、パイダリ党の主要議員は署名に参加しなかったと伝えられている。
期限付き休戦後に再度勃発した強硬派との対立
こうした対立は、最高指導者の不在や統治機能の低下とも連動している。モジタバ師は就任後、一度も公の場に姿を現しておらず、重傷を負ったとの説も浮上している。ロイター通信は、同師が警備上の理由から、IRGC幹部を経由するか、限られた通信手段でしか意思を伝達できていないと報じた。FTもまた、最高指導者と実務組織との間で、最低限の疎通すら困難な状態にあるという関係者の証言を伝えている。
このため、交渉は一見外交ラインが主導しているように見えるが、実際の調整は軍事・安全保障責任者の承認なしには動きにくい構造になっている。交渉はアッバス・アラグチ外務大臣とガーリーバーフ議長が主導権を握り、パキスタン仲介交渉ではアフマド・ヴァヒーディーIRGC総司令官が水面下で調整役を果たしてきたとされている。
トランプ大統領、「誰が実権者なのかわからない」と再度発言

米国もイラン内部の意思決定の混乱を突き、公然と揺さぶりをかけている。ドナルド・トランプ米大統領は同日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「イラン側から、自分たちは現在『崩壊状態にある』との連絡があった」と主張した。続けて、イラン側は指導部の立て直しを図る間、米国は可能な限り速やかにホルムズ海峡を開放することを望んでいると明かした。
トランプ大統領がイラン指導部の混乱を指摘したのは、今回が初めてではない。今月23日のホワイトハウスでの行事でも、「イランは誰が国を率いているのかすらわからない大混乱の状態だ」とし、「彼らが混乱を収拾できるよう、暫定的に猶予を与えることにした」と発言していた。25日にパキスタンでの終戦交渉が決裂した際にも、「イラン指導部内では凄まじい内紛と混乱が起きている」とし、「彼ら自身を含め、誰が実権を握っているのか誰一人分かっていない」と主張した。
対するイラン指導部は、結束の誇示に躍起になっている。ガーリーバーフ議長、ハスウード・ペゼシュキアン大統領、および司法府長官は、「X(旧Twitter)」を通じて共同声明を発表し、「イランに強硬派や穏健派といった区別は存在しない。我々は皆イラン人であり、革命家である」とのメッセージを強調した。
しかし、これは逆説的に内部分裂の論争がそれだけ深刻であることを示唆しているとも読み取れる。
ホルムズ海峡の外交カードは保持…交渉の余地は縮小
ただし、専門家らは交渉停滞の原因は単なる権力空白だけではないとみている。米国が提示し得る条件とIRGC強硬派が受諾可能な条件との間の隔たりこそが、本質的な障壁だとの分析した。IRGC側は、米国に柔軟な姿勢を見せれば「弱みを露呈した」と受け取られかねないと警戒しており、トランプ大統領もまた、中間選挙を控えてイランに譲歩したとの印象を与えるわけにはいかないという事情を抱えている。
カーネギー国際平和基金の上級研究員であるアーロン・デイヴィッド・ミラー氏は、イラン指導部が内部で一定の戦略を共有していると分析している。彼らの狙いは、全面的な開放を避けながらも、ホルムズ海峡を外交カードとして保持し、戦後、政治・経済・軍事において有利な立場を築く点にある。イランがホルムズ海峡付近で軍事的圧力を強める一方で、交渉自体には含みを持たせているのも、そのためだ。
イランの交渉停滞の背景には、最高指導者を中心とする統治体制の弱体化と、IRGCやSNSCを中心とした集団安保指導体制の台頭、そして政界内部の強硬派による交渉反対が同時に発生していると指摘されている。内部の権力中枢の移行と強硬派による圧力が相まって、交渉の余地が一段と狭まっているのが実情だ。
















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