
北朝鮮の大規模GPS妨害はなぜ通用しなかったのか
北朝鮮が黄海上で大規模な電波妨害作戦を行った際の狙いは、ミサイル、艦艇、精密誘導兵器を「目の見えない兵器」に変えることだった。
GPS信号は地上へ到達する時点で極めて微弱なため、強力なノイズを浴びせれば容易に覆い隠せると計算していた。
実際、強力なジャミングによって周辺の漁船数百隻が航路を見失い、混乱状態に陥った。
しかし、本来狙っていた軍艦艇や精密兵器システムはほとんど影響を受けず、そのまま作戦を継続した。
多額の資金と戦力を投入した作戦が、あっけなく失敗した格好だ。
核心は「CRPA」と呼ばれる制御型受信アンテナ
この電子戦での失態を生み出した主役が、制御型受信パターンアンテナ「CRPA」技術だ。
軍は主要な兵器システムのGPS受信部へ、このアンテナを大規模に導入していた。
CRPAは、衛星から届く正常信号と、北朝鮮側が放射する妨害信号を同時に受信し、極めて短時間で方向や強度を分析する。
そのうえで、妨害電波が飛来する方向だけ受信利得を大幅に下げ、実質的な電波遮断領域を形成する。
その結果、精密兵器は、高性能のノイズキャンセリングヘッドホンと同様に、周囲の雑音だけを除去し、必要な衛星信号だけを選択的に受信できるようになった。
ジャミングからスプーフィングへ…電子戦は「だまし合い」の時代へ
北朝鮮による最初の試みは、「大音量ノイズでかき消す」タイプのジャミングに近かった。
しかし、現在の電子戦はさらに巧妙化している。
今や脅威の中心は、単なる妨害ではなく、本物のGPSを装った偽信号を送り込み、兵器を誤った地点へ誘導する「スプーフィング」へ移りつつある。
こうした流れに対応するため、受信信号の時間、周波数、位相、軌道パターンなどをリアルタイム分析し、「本当に衛星軌道から届く信号なのか」を識別する技術が兵器体系へ組み込まれている。
さらにAIアルゴリズムを活用し、異常パターンを自動検知して遮断するだけでなく、攻撃源を逆探知する段階も視野に入れている。
GPSの自立を目指す韓国独自の衛星測位システム「KPS」
いかに対ジャミング技術が進化しても、根本的に他国システムへ依存する構造では完全な自立は難しい。
そこで進められているのが、韓国版衛星測位システム「KPS」だ。
約3,916億1,700万円規模のこの事業は、いわば「独自のGPS衛星網」を構築する超大型プロジェクトである。
周辺地域をカバーする複数の衛星を配置し、独自信号を発信できるようになれば、兵器システムは米GPSとKPSを同時利用する二重・三重構造を持つことになる。
こうなれば、敵が特定システムへジャミングやスプーフィングを仕掛けても、別系統から位置・時間情報を継続確保でき、測位情報の自立性が大幅に高まることになる。
北朝鮮の「金食い虫」挑発が生んだ逆説
住民の生活費まで削って構築した電波妨害能力だったかもしれないが、結果的には防衛産業技術の「実戦性能試験」を手助けした形になった。
この電波妨害事件以降、「基本的なジャミング防御はすでに克服済み」という自信が生まれた。
そのうえで、スプーフィング対策や宇宙ベース測位システム自立といった次段階へ、さらに速いペースで進む流れが加速した。
皮肉にも、北朝鮮の挑発が対電子戦技術とKPS開発を加速させる契機になったとする見方もある。
電波が未来の戦争の口火を切る
今後の戦争で最初に始まるのは、砲弾ではなく電波だ。
敵の「目・耳・口」を電波によって遮断・歪曲した側が、実際のミサイルや砲撃が始まる前に戦いの半分を制するとみられている。
すでにCRPA技術によって、第1世代の電子戦防御シールドを保有した状態にある。
さらに現在は、スプーフィング対策やKPSなど、第2世代電子戦自立体制へ進みつつある。
北朝鮮が誇示してきた電波妨害能力は、長期的に見れば、「情報戦・電子戦強国」への進化を加速させた逆説的事件として記憶されることになりそうだ。













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