
米国とイランが合意した60日間の休戦は、事実上、形骸化の様相を呈している。発端となったのは、両国間で交わされた曖昧な了解覚書(MOU)だ。特に、ホルムズ海峡の統制権を主張するイランと、これを容認しない米国の対立が、再び戦争の危機へ発展しかねないとの懸念が高まっている。両国が終戦に向けたMOUに署名してからわずか10日後に起きたホルムズ海峡での商船への攻撃は、米国の反撃とイランの報復を招く事態へ拡大している。
イランのイスラム革命防衛隊(IRGC)は6月25日(現地時間)、ホルムズ海峡の統制権を主張し、シンガポールの貨物船「エバー・ラブリー号」を攻撃した。米国は自衛権に基づく反撃だとして、2日後の27日にイランのミサイル・ドローン保管施設と沿岸レーダー基地への空爆を実施した。これを受け、イランは米海軍基地があるバーレーンとクウェートへの攻撃で報復に出ている。クウェート軍は同日、「X(旧ツイッター)」上で、防空網を稼働させてミサイルとドローンを迎撃したと発表した。バーレーン内務省も空襲警報のサイレンを鳴らした後、住民に避難を呼びかけた。
◆ 曖昧なホルムズ条項が火種に
イランは、海峡付近を航行していたパナマ船籍のタンカー「キク号」にも、再びドローン攻撃を加えた。これに対し米国も、イランの軍事監視インフラ、通信システム、防空基地、ドローン保管施設などを空爆し、軍事行動をさらに拡大させている。米中央軍は「米軍は警戒を緩めず、致命的な打撃能力を維持した上で、即応態勢を整えている」と明らかにした。
最大の問題は、ホルムズ海峡の統制権をイランに認めたとも解釈できる、MOUの曖昧な条項にあるとの指摘が出ている。MOUには、イランとオマーンがホルムズ海峡の「将来の管理の在り方」を共同で定める内容が盛り込まれている。CNNは、これは事実上、イラン政府にホルムズ海峡を管理する公式な役割を与えたに等しいと分析した。イランはこれを口実に海峡の統制権を握り、「安全保障サービス料金」の名目で事実上の通航料を徴収する方針を鮮明にしている。さらに、MOUの締結当事者は、イランのマスード・ペゼシュキアン大統領やイランのモハンマド・バゲル・ガリバフ国会議長ら穏健派とされる政治家だが、ホルムズ海峡で実権を握るのは強硬派のIRGCである。この点が事態を一層複雑にしている。
戦争の長期化に伴う世論悪化で追い込まれた米国のドナルド・トランプ大統領が、争点を整理しないまま終戦合意を急いだ結果、事実上の主導権を握るイランに振り回される形となったとの見方が出ている。ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、米国がイランと結んだ暫定休戦協定の曖昧な表現が、2週間もたたないうちにブーメランのように跳ね返ってきていると報じた。

◆ イラン、海峡統制権を放棄する可能性は低い
ホルムズ海峡の正常化を巡っても、両国が思い描く方向性は食い違っている。米国は、戦争前の状態に戻し、海峡の自由な通航を回復すべきだとの立場だ。米国は最近、イランの対岸に位置するオマーン側航路の通行量を増やすため、双方向の航行が可能なよう航路を拡張するとともに、商船へ同航路の利用を促し、軍事的な保護を提供している。一方、イランは自国当局の通航許可を前提とする恒久的な統制権をホルムズ海峡で行使しようとしており、オマーン側航路の活用拡大にも強く反対している。オマーン側の通行量が増えれば、イランが航路情報の提供などを口実に課そうとするサービス料金を徴収する根拠が弱まるためだ。
◆ 米国とイランの後続協議、開催は不透明に
問題は、戦時中にホルムズ海峡を統制して利益を得たイランが、毎年少なくとも約数兆円規模の利益をもたらし得る統制権を手放す可能性が、ほぼない点にある。英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)のH.A.ヘリアー研究員は「イランは、より大きな紛争を引き起こさない範囲で国際海運に持続的な圧力を加えるため、ホルムズ海峡の内外で強度を調整した低強度の威圧活動を継続する可能性が高い」と述べた。
事実上イランに屈服したとの米国内外の批判にさらされるトランプ大統領にとっても、ホルムズ海峡を通過する船舶に対するイランの継続的な攻撃を、これ以上放置できない状況となっている。トランプ大統領はこの日、「いつか我々がもはや理性的に対処できなくなる時が来るかもしれない」と警告した。6月21日にスイスで開かれた初の高官級協議に続き、開催が予定されていた実務協議も、通常通り開けるかは不透明となった。














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