
朝鮮半島で戦争が発生した場合を想定すると、朝鮮人民軍の機甲部隊の実際の戦闘力は、一般に認識されている脅威像とは大きく異なる。韓国軍が砲撃を行わなくとも、戦車部隊は移動の過程で故障により停止する可能性が高いとされるためだ。問題は装備の老朽化にとどまらず、構造的な機能不全に近い状況にある。
北朝鮮の戦車の大半は数十年前に製造された旧式装備で構成されている。行軍中に一両でも停止すれば、後続車両が道路上で連鎖的に足止めされる事態が繰り返される。予備部品の不足により現地での修理は事実上不可能であり、訓練不足による操作ミスに起因する事故も多い。戦車兵が約十年に及ぶ兵役期間を経ても、実際の運転経験は限られているとの証言が出る背景でもある。

地形とインフラも大きな制約要因となっている。北朝鮮の道路事情は劣悪で、橋梁や渡河施設は限られている。主要な橋が一か所遮断されるだけで、戦車部隊の進撃は事実上停止する。機甲戦力が機動力を失った時点で、その戦術的意義は大きく低下する。
燃料不足は状況をさらに深刻化させている。かつて木炭車で象徴された軍用車両は、現在では米ぬかや枯れ葉を燃料として用いる段階にまで後退している。石炭や木材が不足する中、稲の殻を燃やし、兵士が後方から継続的に投入しなければ走行できない例もある。十キロの移動に数時間を要し、エンジンが停止すれば再始動だけで数時間かかるとされる。

車両の維持管理も正常な状態とは言い難い。八両中、実際に稼働できるのは二両程度で、残る車両は部品の流用によって辛うじて維持されている。機動部隊というより、老朽装備の集合体に近いとの評価が出る理由である。
人的資源の状況も厳しい。兵力不足により、身長百四十センチ台、体重四十キロ台の人員まで徴集されているとされる。彼らは名目上は兵士であるものの、実態としては約十年にわたり建設現場で長時間の強制労働に従事し、戦闘訓練は後回しにされてきた。
医療体制は事実上の崩壊状態にある。訓練中に倒れて病院に搬送されても、薬剤が不足しており、家族に市場で抗生物質を購入するための資金送付を求めなければならないケースがある。資金がなければ治療を受けられず放置される例も少なくないという。
装備面でも同様の問題が指摘されている。ロシアに派遣された特殊部隊員でさえ、防弾チョッキに初めて触れたという証言がある。内部を空にした外見だけの防弾装備も多く、完全装備の状態では百メートルを走り切れない兵士が相当数に上るとの分析も示されている。

脱北した兵士が韓国軍を初めて目にした際に受ける衝撃は大きい。衣類の質感、装備水準、体格差に至るまで、明確な格差を体感する。同じ民族であるという認識が揺らぐほどの違和感があったとされる。
北朝鮮では韓国軍は臆病者として教育されてきたが、実際の交戦では異なる現実が示された。延坪海戦などの実戦において、圧倒的な火力と装備運用能力を目の当たりにし、宣伝と現実の乖離が露呈した。
こうした状況下でも体制が維持されている背景には、連座制による統制がある。一度の反抗で親族全体が処罰される恐怖が日常を支配し、二十一世紀においても集団処罰が機能する数少ない体制とされている。
分断は皮肉な構図を残した。北朝鮮という存在があったからこそ、韓国は経済成長と国防強化を同時に進めることができた。一方で、その代価を北朝鮮の住民が負担してきた現実も否定できない。













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