
米国と日本の関税交渉が劇的に妥結された中、日本の与党、自民党が20日の参議院選挙で大敗したことが、交渉を加速させたとの見方が広がっている。
ニューヨーク・タイムズ(NYT)は23日(現地時間)、8回におよぶ日米交渉の経緯を振り返り、選挙で敗北した自民党は全面的な関税課税を目前に、何らかの成果を上げる必要に迫られ、結果として全面的な譲歩に同意せざるを得なかったと分析した。ユーラシアグループの日本アジア貿易ディレクターであるデビッド・ボーリング氏は、NYTに対し、「安倍前首相は権力の座にありトランプ大統領と交渉ができたが、今回日本は、不利な立場で交渉に臨まざるを得なかった」と語った。
4月に始まった日米交渉では、日本側を代表する赤沢亮正経済再生相が、自動車関税の再検討を最重要課題として据えた。トランプ大統領との初対面では、大統領が鉄鋼関税について「鉄は国家だ」と述べたのに対し、赤沢氏は「日本は自動車が国家だ」と返答した。しかし、22日の交渉では関税免除を求めず、引き下げによる妥協に戦略を切り替えた。
トランプ大統領はこうした日本の窮状を巧みに利用した。読売新聞によれば、トランプ大統領は関税率を1%ポイント下げるごとに見返りを要求し、「米国のコメ輸入をさらに増やすことができる」、「半導体への投資と支援額も増やせる」と述べたという。交渉に参加した関係者は読売新聞に対し、「トランプ大統領が具体的な数字で要求したため、抵抗するのは困難だった」と振り返った。しかし、日本が強硬姿勢を和らげたため、米国側も日本が求めていた自動車関税率の引き下げに応じた。
交渉初期、複数の担当者がそれぞれの主張を展開し混乱が生じていた中で、日本の交渉チームはトランプ大統領と最も近い位置にあるとされるハワード・ラトニック商務長官を狙い、集中的に説得する戦略を採用した。日本経済新聞によれば、赤沢氏は訪米のたびにラトニック長官と会談し、電話を含めた協議は計15回、約19時間に及んだという。一方、スコット・ベッセント財務長官とは7回・約8時間、ジェイミソン・グリア米国通商代表部(USTR)代表とは3回・約5時間の協議が行われた。
石破茂首相の代わりに赤沢経済再生相が直接トランプ大統領と面談し合意に至ったのは、ラトニック長官との信頼関係が大きく寄与したと、同紙は説明している。実際、ラトニック長官は会談前日の21日に赤沢氏を自宅に招き、予行演習にまで付き合った。在日米国商工会議所のグレン・S・フクシマ前会長はNYTに対し、「トランプ大統領が歴史的勝利を主張できるよう支援することが狙いだった」と語った。
交渉の実務面での合意内容を参考程度にとどめ、最終的な数字を独断で変更するトランプ大統領の手法が、今回の交渉で顕著に現れた。日本政府の高官は「数字の最終決定権はトランプ大統領だけが持っている」とし、「最後の瞬間まで全く油断できなかった」と述べた。
最終段階で数値が急激に変更されたため、5,500億ドル(約81兆175億8,060万円)の具体的な内容はまだ確定していない。実際には履行義務のない口約束に過ぎないのではないかとの見方もある。しかし、ベッセント長官は23日のフォックス・ニュースとのインタビューで、日本との合意内容の履行状況を四半期ごとに評価し、場合によっては関税率を25%に引き上げる可能性があると警告した。
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