「お金は結構、代わりにゴミをください」世界中で話題の「このレストラン」の正体とは

インドでは、プラスチックごみとの交換で無料の食事を提供するカフェが全国に広がっている。環境保護と貧困層の飢餓問題を同時に解決しようとする革新的な発想から生まれたこのカフェは、社会的不平等と環境危機に同時に挑む画期的なモデルとして世界の注目を集めている。
『BBC』は現地時間18日、インド中部チャッティースガル州アンビカプル市の「ゴミカフェ」で毎日繰り広げられる珍しい光景を特集した。
ここでは、客が現金の代わりにビニール袋、食品包装、ペットボトルなど、様々なプラスチック廃棄物を持参し、温かい食事と交換する。
アンビカプル市議会の代理でカフェを運営するビノード・クマール・パテルさんは「プラスチックごみ1kgを持参すると、米、カレー2種類、豆のスープ、ロティ(インドのパン)、サラダが含まれる一食を提供する」と説明した。0.5kgでもサモサやバダパヴなどの軽食を貰うことができる。
2019年に開店したこのカフェは、アンビカプル市の予算で運営されている。「ごみが多いほど、味も良くなる」というスローガンのもとで始まった。
パテルさんは「アンビカプル市が抱える2つの課題、プラスチックごみと飢餓を同時に解決しようという考えから生まれた」と述べ、「低所得層、特にホームレスやごみ収集で生計を立てている人々が、路上やごみ捨て場からプラスチックを集め、温かい食事を得られることを狙っている」と語った。
毎朝、プラスチックを探して街を歩き回るラシミ・モンダルさんは、このシステムの恩恵を受けている一人だ。彼は「この仕事を数年続けている」と述べ、「以前は集めたプラスチックをリサイクル業者に売っても1kgにつき10ルピー(約17円)しか得られなかったが、今では家族の食事に換えられるので、私たちの生活に大きな変化をもたらした」と語った。
カフェで働くシャラダ・シン・パテルさんは「ここに来るほとんどの人が難しい環境にある」と述べ、「プラスチックを食事と交換することで、飢えている人々を助けるだけでなく、環境浄化にも貢献している」と説明している。このカフェは、1日あたり平均20人以上に食事を提供している。
政府の「クリーン・インディア・プロジェクト」の下でこの地域の衛生と廃棄物管理を担当するリテシュ・サイニさんは「カフェのおかげで、埋立地に送られるプラスチックごみの量を削減された」と評価した。
2019年から合計23トンのプラスチックが収集され、これは市全体の埋立プラスチック量が2019年の年間5.4トンから2024年には2トンに減少するのに寄与したという。
アンビカプル市全体のプラスチックごみ量(2024年226トン)からすると小さな割合だが、サイニさんは「カフェは主要な収集網から漏れ落ちるプラスチックを回収し、市民の参加を促す役割を果たしている」と強調した。
収集されたプラスチックはリサイクルされ、道路建設に使われたり、業者に販売されて地方自治体の収入源となっている。食品廃棄物は堆肥化され、リサイクルできない少量のごみだけがセメント工場の燃料として送られると、2020年の政府報告書が明らかにしている。
ゴミカフェの取り組みは、インドの他の地域にも広がっている。西ベンガル州シリグリでは、2019年にプラスチックごみを持参すると無料で食事を提供する計画が始まった。同年、テランガーナ州ムルグではプラスチック1kgを同量の米と交換する制度が導入された。
カルナータカ州マイソールでは、2024年から政府が支援する食堂において、プラスチック500gを無料の朝食に、1kgを無料の食事に交換している。
ウッタル・プラデーシュ州では、プラスチックごみを持参すると女性用衛生用品を配布するキャンペーンも展開されている。
しかし、すべての場所で成功しているわけではない。デリー市でも2020年に20以上のゴミカフェがオープンしたものの、市民の認識不足やごみの分別収集の不備、リサイクルインフラの支援不足などの問題により、次第に閉店に追い込まれている。サイニさんは「デリーではアンビカプルに比べて低所得層が少ないため、ゴミカフェへの関心が低い可能性がある」と分析した。
カンボジアでも同様のプログラムが始まっている。プラスチックごみのために深刻に汚染されたトンレサップ湖周辺の水上村では、住民が収集したプラスチックごみを米と交換できる制度が運営されている。
西インド・グジャラート州アーメダバード大学のミナル・パタク教授は「アンビカプルのようなごみ収集計画が、プラスチックごみの悪影響に対する認識を高めるのに役立つ」と評価した。しかし、「他の都市がゴミカフェ方式の適合性を判断できるよう、政府がより多くのデータを提供する必要がある」と指摘した。
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