熱を放つデータセンター…近隣住宅街が最大2.2℃上昇
風向きによって平均0.7~0.9℃の温度差、熱の影響は最大500m先まで
人工知能(AI)とクラウドサービスの急成長を背景に、これを支える基幹インフラであるデータセンターが急増している。こうしたなか、データセンターが放出する膨大な廃熱が周辺地域の気温を押し上げているとする具体的な研究結果が発表された。
米アリゾナ州立大学の発表によると、同大学地理科学・都市計画学部のデイビッド・J・セイラー教授の研究チームは、フェニックス都市圏に立地するデータセンター4か所を対象に、周辺地域の気温変化を直接測定した結果を公表した。データセンターの熱放出が近隣住宅街の気温に及ぼす影響を現場で実測した研究は、今回が初めてだ。
自動車の排気ガスや工場、建物の冷暖房など、人間の活動によって大気中へ放出される熱は「人工廃熱」と呼ばれる。この廃熱は、都市部の気温が周辺よりも高くなる「都市ヒートアイランド現象」を悪化させる主因となっている。研究チームはデータセンターを、都市環境のなかで急増する集中型の人工廃熱源と位置づけた。調査では、データセンターが電力を消費する過程で放出する単位面積あたりの熱量(熱流束)が、真夏の昼間に降り注ぐ太陽光の2倍〜6倍に達することが明らかになった。

研究チームは、高精度の温度センサーとGPSを搭載した車両でデータセンター周辺の公道や近隣住宅街を走行し、気温を測定した。センサーは地上1.6~2.2mの高さに設置し、2秒間隔で細かく気温を記録した。風が吹いてくる側(風上側)と吹きぬける側(風下側)の気温を比較する手法で実験を進めた。
アリゾナ州チャンドラー市とメサ市にあるデータセンター4か所、すなわちCyrusOne 、Aligned 、デジタル・リアルティ 、NTT PH1の周辺で観測を行った結果、風に乗って運ばれた廃熱が近隣住宅街の気温を明らかに押し上げている実態が浮き彫りになった。
まずCyrusOne周辺では2025年6月18日の午後に観測を実施した。秒速2.1mの西南西の風が吹くなか、敷地の東側と北東側に位置する住宅街の気温は43.5℃を記録した。これは風上側の平均気温42.7℃より約0.8℃高い数値で、この気温上昇は風下方向に約500m離れた地点まで続いた。同年8月8日の午前にも西北西の風が吹くなか、南東側の住宅街の気温が風上側より0.5℃高かった。一方、調査地域の一部には涼しい地点も確認され、チュパロサ・パーク内の貯水池や散水された運動場、樹木の近くなどであることが判明した。研究チームは、緑地や水辺がデータセンターの廃熱の影響を和らげる重要な手がかりになると説明している。
Aligned周辺でも気温差が確認された。冷却用凝縮器(コンデンサー)から熱い排気が出る東側区域の平均気温は39.3℃だったのに対し、風上側にあたる西側区域の平均気温は38.6℃と、約0.7℃の差が生じた。
デジタル・リアルティ周辺では、風上側の平均気温が24.2℃だったのに対し、同施設を経て風下側へ抜けた地域の平均気温は25.2℃と、1.0℃上昇していた。特に地点によっては、最大で約2℃の気温差が見られた。
最後にNTT PH1では、2025年10月25日の午前に測定を実施した。南南東風に乗って廃熱が北側の住宅街へ流れ込んでおり、施設の境界付近では場所によって25.0℃と25.5℃が記録された。しかし、住宅街の奥へ80~100m入ると気温は24.6~24.8℃に下がった。研究チームは、コンデンサーから出た熱い空気が風に乗って移動するうちに大気と混ざり、徐々に薄まっていく動きと整合する結果だと分析した。
4か所の観測結果を総合すると、データセンター外周境界から100~500mの範囲で明確な気温上昇が捉えられた。風下側の平均気温は0.7~0.9℃上昇し、最大上昇幅は2.2℃に達した。日付や気象条件が異なるなかでも、気温の高い領域が常に風向きと一致していた点が、データセンターの廃熱による気温上昇を裏付けている。
このように周辺の温度が上がる背景には、データセンターの冷却方式がある。IT機器が消費した電力の大半は熱に変わるが、これを冷やす空冷式コンデンサーは、周辺より8~14℃高い空気を秒速2~4mで放出する。夏のフェニックス地域では、この排気温度が50℃を超えることもあるという。さらに深刻なのは、データセンターと住宅街の距離が極めて近いことだ。今回調査されたNTT PH1とCyrusOne以外にも、Appleやアイアン・マウンテンなどのデータセンターが住宅街に隣接している。
排出される熱の規模も膨大だ。NTT PH1一か所から放出される熱量は約4万世帯、チャンドラー市にあるCyrusOneデータセンター団地に至っては実に18万世帯以上が排出する熱に匹敵すると推算されている。冷房が家庭の電力使用量の半分以上を占めるフェニックス都市圏の特性上、外部温度が1~2℃上がるだけでも周辺住宅街の冷房需要と電気料金が大幅に膨らむ悪循環を招く可能性が指摘されている。
研究チームは、今回の結果が4か所のデータセンターを対象とした初期観測であることを踏まえ、今後はより広い時間帯や多様な気象条件での追加調査が必要だと指摘した。論文の主著者であるデイビッド・セイラー教授は「データセンターは現代社会に不可欠なインフラであり、今後その需要はさらに高まっていくだろう」と述べ、「今後はデータセンター事業者と政策担当者が緊密に連携し、住宅街に流れ込む廃熱の影響を最小限に抑える実効性のある対策を講じる必要がある」と強調した。
















コメント0