「会社に見捨てられた気がする」終身雇用の象徴“退職一時金にメス”、日本企業で広がる制度見直し

企業が終身雇用を前提に設計した退職一時金制度の見直しを始めた。一部の企業は退職時にまとまった金額で受け取っていた退職一時金を廃止し、その財源を給与の引き上げと個人運用型の確定拠出年金(DC)に振り向けている。
日本経済新聞(日経)は29日、伊藤忠商事の化学品子会社タキロンシーアイ(Takiron CI)が4月に退職一時金を廃止したと報じた。
対象は国内の全従業員約1,200人だ。会社は廃止した退職一時金の半分を給与の引き上げに充て、残りの半分は従業員が直接運用する確定拠出年金(DC)に上乗せすることにした。
ただし退職給付全体が消えるわけではない。従来のタキロンシーアイの退職給付は退職一時金、確定給付企業年金(DB)、確定拠出年金(DC)がそれぞれ3分の1ずつを占める構造だった。新制度ではこの中で退職一時金のみが廃止される。
既に積み立てられた退職一時金も消えない。従業員はこれまでに積み立てられた金額を退職時に受け取ることができる。
退職一時金廃止の背景には、優秀な新入社員の確保を目指す狙いがある。優秀な人材を確保するには初任給を上げざるを得ず、そのための財源の一部を退職一時金から捻出したのだ。
タキロンシーアイの2026年度大卒新入社員初任給は前年より1万円上がって25万5,000円となる。この引き上げ分の半分近く約4,600円が退職一時金廃止の財源から出ている。
労使交渉は容易ではなかった。タキロンシーアイの労使は合意に至るまで1年間交渉を続けた。会社側は最初から退職一時金に手を付ける方針を譲らず、労働組合は会社負担のみで基本給を上げる案を求めた。
会社側は競合他社と比較して自社の退職給付水準が高い点を主張した。労働組合もこの点は認め、結局昨年8月に退職一時金廃止の方向性を受け入れた。

その後の焦点は廃止した退職一時金をどこにどれだけ振り分けるかだった。会社は最初に退職一時金全額を給与引き上げに充てようと提案したが、労働組合は全体の退職給付が従来の3分の2に減ると反発した。
結局、会社は最終的に方針を一部修正した。廃止した退職一時金の半分は給与に、残りの半分はDCに入れる方式で合意した。
ただし将来受け取る退職一時金を現在価値に換算する割引率の問題では会社側の主張が受け入れられた。労働組合は割引率0%を要求したが、会社は予想運用収益率を根拠に2%適用を主張し、最終合意に反映された。運用成績によって不利益を被りやすい40~50代の従業員には別途補償措置を講じることにした。
制度改編案は昨年10月に整理されたが、労働組合には従業員説明というさらに難しい手続きが残っていた。労働組合は今年1~2月に全国事業所を回り約50回の説明会を開いた。
説明会ではシニア社員を中心に激しい反応があった。「なぜこんなことをするのか」、「会社に見捨てられた気がする」、「運用を前提に話されても困る」という不満が続出した。一方、資産運用に慣れた若い社員たちの間では「自由に使えるお金が増えて良い」という肯定的な評価もあった。
企業の退職一時金の見直しはタキロンシーアイだけの問題ではない。王子ホールディングスも昨年3月に新入社員の退職一時金を廃止することにした。会社側は制度が複雑で透明性が低く、従業員のモチベーションにも十分に寄与していないと説明した。
雇用流動性が高まる中で終身雇用を前提とした退職一時金の意味も薄れている。日経は企業の間では手を付けたいが反発が大きく簡単には修正できなかった高額な退職給付制度が見直し対象になっていると伝えた。















コメント0