
5月27日、小型の無人水上艇(USV)1隻が初めて台湾海峡の横断に成功した。主役となったのは全長3.5m、重量138kgで太陽光発電により約6カ月間で1万4,816kmの航行が可能な米スタートアップ企業SeasatsのLightfish(ライトフィッシュ)だ。5日間の航行では、自動船舶識別装置(AIS)を停止したまま台湾の排他的経済水域(EEZ)を航行していた中国海軍056型フリゲート艦を含む複数の艦艇に数十mまで接近し、撮影に成功した。Seasatsのマイク・フラニガンCEOは「中国海軍が周辺海域に艦艇を展開するのは日常的だが、位置情報付きの写真を取得できたケースは極めて珍しい」と説明した。
6月18日、台湾政府は沿岸監視用ドローンや攻撃型ドローン、小型自爆ドローンなど計21万機を調達するために2,100億台湾ドル(約1兆660億円)の予算を盛り込んだ国防自主無人航空機調達特別条例案を可決した。この予算は今年8月から2031年末まで執行される予定だ。今回の計画では米国製兵器の購入ではなく、台湾国内での調達・生産・整備を明記している。
フラニガンCEOは昨年8月、米誌ニューズウィークの取材に対し「太平洋の真ん中で起きた出来事に注目すべきだ。価格25万ドル(約4,045万円)のUSVが乗員100人を乗せた9億ドル(約1,456億2,000万円)の中国駆逐艦に数メートルまで接近した」と述べ、数千万円規模のドローンでも約1,400億円規模の駆逐艦を無力化できる可能性を示唆した。ライトフィッシュが米サンディエゴから日本まで約1万2,000kmを6カ月かけて航行する途中、グアム北西沖で中国海軍055型ミサイル駆逐艦・南昌(艦番号101)に接近した事例を紹介したもので、安価な無人機が高価な有人兵器を無力化する新たな戦争の形が現実になりつつあるとの認識を示した。
米国と台湾は現在、海上・航空ドローンを数十万機規模で多層的に展開するキルチェーン構築を急いでいる。ウクライナ戦争やイランとの軍事衝突を経て、高価な兵器中心だった戦争の様相が大量・低コストの無人システムへ移行しつつあり、2年前に登場したヘルスケープ(地獄絵図)構想が現実味を帯びている。

中国が台湾を侵攻した場合、台湾海峡を無人地獄に変えるというヘルスケープ構想は、2024年6月に米インド太平洋軍司令官のサミュエル・パパロ大将が初めて提唱した。国際戦略研究所が主催するシャングリラ会合でパパロ大将は「中国艦隊が幅約160kmの台湾海峡を渡り始めた瞬間、数千機の無人潜水艇、無人水上艇、ドローンを展開して台湾軍や米軍、同盟国軍が本格的に対応する時間を確保する」と説明し「台湾海峡を無人機で埋め尽くされた地獄にする」と語った。
パパロ大将の論理は明快だった。中国軍の上陸作戦では数百隻規模の輸送艦や上陸艇、護衛艦が台湾海峡を渡る必要があり、その数時間こそが唯一の「脆弱な時間帯」となる。米空母打撃群の到着には数日を要する一方、事前配備された群れを成すドローンであれば、中国軍の侵攻部隊を即座に消耗・遅滞させることができるという。

ヘルスケープ構想は米国ではすでに「レプリケーター・イニシアチブ」として具体化が進んでいる。2023年8月、当時の米国防副長官だったキャスリーン・ヒックス氏が立ち上げたレプリケーター・イニシアチブでは、あらゆる領域で消耗型の自律無人システムを大量導入する方針が打ち出された。
米国新安全保障センターが今年2月に公表した報告書「台湾の地獄絵図(Hellscape for Taiwan)」では「ドナルド・トランプ米大統領が同盟国やパートナー国に自衛の責任を求めていることから、ヘルスケープは米国の戦略というより、台湾自身の防衛戦略と位置付ける方が適切だ」と分析した。
ジョー・バイデン米前政権で誕生した構想がトランプ政権では台湾の自衛戦略として発展したとの見方だ。台湾メディアは5月、米国のUSVライトフィッシュによる台湾海峡横断をヘルスケープ構想初の実戦的な検証と評価した。
台湾紙・聯合報は6月11日「ライトフィッシュの台湾海峡横断は小型自律無人システムが台湾海峡を巡る軍事バランスを新たな段階へ移したことを象徴している」と報じ「大規模軍艦中心だった兵器体系が無人ステルスシステムへ移行する転換点だ」と分析した。
一方、中国もこうした動きを警戒している。Seasatsが台湾海峡横断成功を発表した翌日の5月28日、中国中央テレビ(CCTV)は056A型フリゲート艦・文山艦と贛州艦が高速接近する無人水上艇を発見し、実弾射撃で撃沈したとする映像を放送した。056型フリゲート艦がライトフィッシュを探知できなかったとの見方を打ち消す狙いがあったとみられる。
2024年、パパロ大将がヘルスケープ構想を発表した際、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は中国の軍事専門家の話として「中国もAIを搭載した大規模なドローン編隊で米国のドローン部隊に対抗する能力を十分備えている」と報じていた。














コメント0