
20歳の女性A氏が、デンマークの首都コペンハーゲン郊外の森林地帯でカモフラージュメイクを施し、地平線を警戒している。彼女は今年初めに自ら志願して入隊し、今月初めに約4か月の軍事訓練を終えた。A氏のようなデンマーク人女性が軍に入るには、これまで志願するしかなかった。彼女は「今の世界情勢を考えれば、女性も軍務に就く必要がある。男女平等に参加することが公平で正しい」と語る。
しかし、7月1日から状況が変わる。デンマーク議会は6月初め、女性も徴兵対象とする法案を可決し、7月から施行される。この変更は、ロシアの侵略の脅威とNATO(北大西洋条約機構)加盟国の軍事投資増加を背景としている。
ロシアのウクライナ侵攻以前、デンマークは比較的安全な国と見なされていた。しかし、ロシアのウクライナ全面侵攻はデンマークにも影を落としている。ウクライナ戦場での教訓は訓練にも反映されている。デンマークは2024年の主要防衛協定の一環として2027年の徴兵で男女平等を実現する計画だったが、2025年夏に前倒しした。
ただし、男女とも徴兵対象になったからといって、全員が入隊するわけではない。人口600万人のデンマークの兵力は約9,000人だ。徴兵対象の拡大により、昨年4,700人だった年間徴集兵は2033年には6,500人に増加すると予想される。しかし、志願者が多いため、徴兵対象者は抽選で決定される。昨年は全徴集兵の約4分の1が女性の志願者だった。
徴兵対象の拡大とともに、兵役期間も4か月から11か月に延長される。徴兵されると、5か月間の基礎軍事訓練を受けた後、残り6か月は軍務に就きながら追加訓練を受ける。
デンマークは2月、70億ドル(約1兆63億円)規模の基金を創設し、軍の強化計画を発表した。今年の国防費をGDP(国内総生産)の3%以上に引き上げると表明した。これらの動きは軍事力増強の一環だ。
デンマーク王立防衛大学のリッケ・ハウゲゴー (Rikke Haugegaard)研究員は「欧州の安全保障情勢が悪化している。ウクライナ戦争が続き、デンマークが多くの兵士を派兵しているバルト海諸国に注目せざるを得ない。デンマークの防衛力強化は避けられない」と指摘した。
なお、デンマークに先立ち、スウェーデンは2017年に男女両方を対象とする徴兵制を導入した。ノルウェーは2013年に男女ともに徴兵制を適用する独自の法律を制定していた。
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