「地下トンネルから石油窃盗」拡大するメキシコの闇取引、当局が本格取り締まりへ

メキシコで違法な石油取引が急拡大し、政府が大規模な摘発に乗り出している。背景には、長年にわたる監視の甘さや、犯罪ネットワークの国際化があるとされている。
メキシコ安全保障省は、過去半年にわたり捜査を進めた結果、国内各地で12件の摘発を実施。首謀者5人を含む計32人を逮捕し、関連する石油盗難グループの解体に成功したと発表した。押収されたのは、防弾車や武器、石油輸送用コンテナなど多数。さらに、盗油拠点2カ所を閉鎖し、約1億2,000万円に相当する現金も押収された。
注目すべきは、今回摘発された組織がただの窃盗団ではない点だ。地下トンネルを掘って国営のパイプラインに穴を開けるなど、高度な手口が使われていた。しかも、周囲に農作物を植えて進入口を偽装するなど、プロの手による計画性がうかがえる。摘発対象の中には、低品質燃料の精製に精通した技術者や、保管・輸送効率を高める施設を設計したエンジニアも含まれていたという。
現地には、盗まれた燃料を指すスラング「ウアチコル」が定着しているほど、闇市場が根深い。国営石油会社ペメックスのデータによれば、2022年の1日平均の盗油量はおよそ6,100バレル(約97万リットル)、金額換算で1日あたり1億7,000万円超に達する。
不正は国内にとどまらず、米国からの密輸にも及ぶ。最近では、メキシコ海軍が1,000万リットル相当の違法ディーゼル燃料を積んだ大型コンテナ船を摘発。この燃料は「産業用潤滑油」と偽装され、米テキサスから持ち込まれたものだった。密輸された燃料は主に国境付近のガソリンスタンドに流通し、一部では全国平均を大きく下回る価格で販売されているという。
シェインバウム大統領は「問題の根は深く、すぐに解決できるものではない」と述べ、今後も追跡調査と取り締まりを強化していく方針を示した。
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