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「中国製チップを使わせてほしい」アップル、米政官界へのロビー活動に乗り出した思惑

織田昌大 アクセス  

引用:米国防総省のYouTube
引用:米国防総省のYouTube

米ワシントン政界がAppleに対して「激怒」している。世界的なAI向けメモリー半導体の供給不足が続く中、MacBookやiPadなど主力製品の価格を大幅に引き上げたAppleが、輸出規制対象となっている中国製半導体を購入するため、あらゆる方面でロビー活動を展開していると伝えられているためだ。

ブルームバーグ通信は今月1日、「iPhoneの約90%を中国で生産しているAppleが、中国市場向け製品に搭載するメモリーチップを、中国の長鑫存儲技術(CXMT)および長江存儲科技(YMTC)から調達する案を進めている」と報じた。Appleが中国製メモリーチップの使用を中国向け製品に限定しようとしているのは、米政界の反発を意識したためとみられる。

英フィナンシャル・タイムズ(FT)もこれに先立ち、Appleが約1か月前、米商務省に対して中国製メモリーチップの購入承認を求めて接触したのに続き、ホワイトハウスや政府内の他省庁、さらにワシントン政界の友好的な関係者に対しても幅広いロビー活動を行っていると報じた。Appleのこうした動きは、昨年9月以降にメモリー価格が急騰したことを受け、中国製メモリーチップの調達によって製造コストの負担を軽減し、収益性を維持するための布石と受け止められている。

Appleが最も関心を示しているとされるのは、中国最大のメモリー半導体メーカーであるCXMTだ。同社は、中国のIT大手・騰訊(Tencent)と200億元(約4,763億2,400万円)規模のサーバー向けDRAM長期供給契約を締結したと伝えられている一方で、中国人民解放軍との関係が疑われ、米国防総省の「1260H」(中国軍事企業)リストにも掲載されている。また、中国最大のNANDフラッシュメーカーであるYMTCも、中国軍事企業リストに含まれている。

米国防総省が作成・管理する「1260Hリスト」は、国防権限法(NDAA)第1260H条に基づき、中国人民解放軍を支援していると判断される企業を「中国軍事企業」として指定する制度である。これは、米国の国家安全保障を脅かす恐れのある中国の先端技術・インフラ企業などを対象としている。国防総省は、「中国軍は『民間機関を装った中国企業』や大学、研究機関が開発した先端技術や専門知識を吸収しようとしている」と説明し、これら企業を軍事企業に指定した背景を明らかにしている。

引用:米国防総省のYouTube
引用:米国防総省のYouTube

これらの企業は、戦車や弾道ミサイルを製造するような伝統的な防衛産業企業ではないものの、中国政府が主導する「軍民融合」(企業・大学・研究機関の人材を活用し、世界一流の軍隊を育成しようとする国家主導戦略)に大きく貢献しているとされる。表向きは民間企業の形態を取っているが、実際には国有資産監督管理委員会(SASAC)や工業情報化部(MIIT)などの主要政府機関と直接・間接に連携し、先端技術を軍の近代化に提供しているというのが米国防総省の見解である。

したがって、国防総省の「中国軍事企業」リストは、米国内からの資本投資の流入を制限し、企業に深刻な評判リスクを与えることに重点を置いているのに対し、商務省の輸出規制リストは、米国の中核的な先端技術や部品へのアクセスそのものを遮断する実質的な供給規制であるという点で、その性格はまったく異なる。「中国軍事企業」リストに掲載されたからといって、直ちに企業資産が凍結されたり、米国向け輸出が全面的に禁止されたりするわけではない。掲載企業は国防総省と直接調達契約を締結・更新することができず、来年6月30日以降は、第三者を経由した場合であっても、これら企業の部品やサービスを含む最終製品を購入することさえ全面的に禁止される。

Appleが異例ともいえる中国製メモリーチップの採用を進める背景には、何よりも半導体価格の急騰がある。AIブームの加速を受け、世界のビッグテック企業がAIインフラ構築に数千億ドル規模の投資を行ったことで、高帯域幅メモリー(HBM)の需要が爆発的に増加した。

HBMはレガシー(汎用)メモリーに比べて収益性が高いため、世界のメモリーメーカーによるこうした生産シフトは、構造的に後戻りが難しい時代の流れとなっている。その結果、スマートフォンやPCに搭載される従来型レガシーデバイス向けメモリーの供給不足が深刻化した。AI半導体ブームの余波が、Appleの主力製品であるMacBookやiPadの製造コスト上昇圧力へと波及したのである。

Appleの最高経営責任者であるティム・クック氏(CEO)も、17日にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、メモリー半導体をはじめとする部品価格の急騰について「100年に一度の洪水だ」と表現し、「価格引き上げは避けられない」と述べた。その後、同氏は25日にMacBookとiPadの価格をモデル別に約20%引き上げた。この措置によって需要鈍化への懸念と市場の成長性に対する疑念が重なり、Appleの時価総額は値上げ発表直後のわずか1日で2,630億ドル(約42兆5,900億円)が消失する衝撃に見舞われた。

引用:米国防総省のYouTube
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情報技術(IT)業界によると、スマートフォン向け「LPDDR5X 12GB」の価格は、2025年会計年度第4四半期の77.1ドル(約1万2,500円)から2026年会計年度第1四半期には145.9ドル(約2万3,600円)へと、約2倍に急騰した。しかし、AppleによるYMTCのメモリーチップ調達カードは、実際にサプライチェーンへ組み込まれるというよりも、世界のメモリー価格決定の仕組みを揺さぶるための高度な交渉戦略に近いというのが、半導体専門家の大方の見方だ。Appleは依然として高い利益率を維持しているものの、定着しつつあるメモリー価格の上昇が長期的な利益率維持の大きな障害になるとの判断が、今回の「中国製カード」を切るきっかけになったという。

こうした事情から、AppleによるCXMT製メモリーチップ調達の本質は、「実際のサプライチェーンの変更」ではなく、「価格決定の仕組みを揺さぶる試み」と受け止められている。Appleの真の目的は、CXMT製チップを直ちにiPhoneへ全面採用することではなく、「中国製を採用する可能性もある」というシグナルを市場に発することで、既存の供給元に圧力をかけることにあるという。CXMTを交渉のテーブルに載せるだけでも、レガシーメモリーの値上げの流れに歯止めをかけられる、という説明だ。

Appleは、世界の部品メーカーに対して強い価格交渉力を発揮することで「悪名高い」企業として知られている。膨大な発注量を武器に、極めて低い調達価格を要求してきた。これはApple製品の高い収益性を支える重要な要因の一つでもある。Appleの購買力は数字にも表れている。2025会計年度時点で、製造関連の3~5年の長期契約期間中に取引先へ一定数量の購入を義務付ける「戦略的契約(SCA)」の総額は562億ドル(約9兆1,000円)に達した。製品部門の売上総利益率も昨年36.8%を記録している。

世界有数のメモリー供給メーカーである米マイクロン・テクノロジーの幹部も、このような構造を間接的に指摘している。マイクロンの最高事業責任者(CBO)、スミット・サダナ氏は、一部顧客による強硬な価格引き下げ要求が、現在のメモリー供給不足を招いた要因の一つになっているとの趣旨の発言を行った。同氏はAppleの名前を直接挙げなかったものの、業界ではこの発言をAppleの強硬な調達慣行を念頭に置いたものと受け止めている。

引用:米国防総省のYouTube
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このため、2023年のメモリー市場は実際に極めて深刻な低迷に見舞われた。マイクロンの2023会計年度の売上高は155億4,000万ドル(約2兆5,200億円)となり、前年の307億5,800万ドル(約4兆9,800億円)のほぼ半分にまで急減した。DRAMは平均販売価格(ASP)が40%台後半下落し、売上高は51%減少した。利益率も大きく悪化し、マイクロンの連結売上総利益率は2022年の45%から2023年にはマイナス9%へと急落した。純損失は58億3,300万ドル(約9,441億5,600万円)に達した。

しかし、AppleによるCXMTカードが狙いどおりの成果を得られるかどうかは不透明だ。仮に米政権がAppleの要請を受け入れたとしても、議会の強い反対に直面するとみられている。米下院・米中戦略競争特別委員会のジョン・ムレナー委員長は、「Appleが中国の軍事企業と手を組むような行動は重大な誤りとなる」としたうえで、「中核的なサプライチェーンにおける中国への依存を高めることは、米国の技術産業を危険にさらす」と強く警告した。

Appleは2022年にも、中国で販売するiPhoneにYMTCのNANDフラッシュを採用することを検討したが、米政界からの激しい反発を受け、計画を撤回した経緯がある。

当時、米上院情報委員会の共和党筆頭委員を務めていた現国務長官のマルコ・ルビオ氏は、「Appleは火遊びをしている」と述べたうえで、「YMTCのチップを実際に調達すれば、連邦政府からこれまで経験したことのないレベルの監視を受けることになるだろう」と警告した。

■用語解説

DRAMはメモリー半導体の一種で、コンピューターの電源が入っている間だけ情報を保持するという特徴を持つ。デスクトップPCやノートPC、スマートフォンなどに搭載されている。

一方、NANDフラッシュは別の種類のメモリー半導体で、電源を切ってもデータが消えない不揮発性メモリーである。スマートフォンやMP3プレーヤー、デジタルカメラなどに使用されている。

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