
「すべての国際制裁が解除されるのであれば、濃度60%の濃縮ウランを希釈することを検討できる」イランのモハマド・エスラミ原子力庁長官がこのように述べたと、メヘル通信が9日報じた。
イランと米国は6日、オマーンの仲介により、核およびミサイル問題をめぐる間接協議を行った。オマーンの外相がまずイランのアッバス・アラグチ外務次官と会談し、その内容を米国側代表であるスティーブ・ウィトコフ特使らに伝えて反応を引き出す、いわゆるシャトル外交の形式が取られた。双方は協議を「建設的だった」と評価し、今後も対話を継続する考えを示している。
こうした対話の背景には、米国の軍事的圧力がある。ドナルド・トランプ米大統領は先月、中東に「無敵艦隊」を派遣したと表明し、イランへの軍事攻撃を示唆する姿勢を見せた。イランでは昨年12月28日に発生した大規模な反政府デモが、治安部隊による強硬な鎮圧で沈静化しつつあったが、空母エイブラハム・リンカーンの派遣によって中東の米軍兵力が約5万人規模に拡大する状況を目の当たりにすることとなった。
イラン最高指導者ハーメネイー師は、仮に米国が攻撃に踏み切れば、それはイラン国内にとどまらず、中東全域に拡大する戦争になると警告している。イランは昨年6月、約18日間にわたりイスラエルと米国から攻撃を受け、核物質の濃縮・研究施設の大半が破壊され、死者は約1000人に上った。
トランプ大統領は当時、イランの濃縮ウラン備蓄のほぼすべてが破壊されたと主張した。しかし、その後に米国および西側の情報機関がまとめた評価では、戦略爆撃機によるバンカーバスター爆弾14発や巡航ミサイル・トマホーク数十発による攻撃にもかかわらず、「イランの核能力は数か月程度後退したにすぎず、数年単位の打撃には至らなかった」と低く見積もられている。
こうした中、トランプ大統領は軍事行動に踏み切る代わりに、イランに核およびミサイル計画をめぐる交渉に応じるよう圧力をかけ、イラン側がこれに応じたことで、今回のオマーンでの間接対話が実現した。
イランは交渉に応じる姿勢を見せる一方、米国の要求のうち、濃縮ウランの全量廃棄については協議の余地があるとしながらも、ミサイル開発計画の全面中止については「議論の価値もない」として断固拒否している。また、米国が求める「抵抗の枢軸」と呼ばれる代理勢力への支援停止については、言及を避けた。
イランは2015年、大国6か国といわゆる核合意(JCPOA)を結び、ウラン濃縮を発電用水準の3.67%に制限し、備蓄量も300キログラム以内に抑えることで合意した。その見返りとして、米国や欧州による長年の経済制裁が解除された。
しかしトランプ大統領は2018年5月、この核合意から一方的に離脱し、同年11月に制裁を再開。さらに、イランと取引する企業が米国の金融機関と取引できなくなる二次制裁を同盟国にも適用した。
これを受け、イランは2019年以降、核合意の履行を段階的に停止し、ウラン濃縮の濃度を20%、さらに60%まで引き上げた。核兵器製造には90%の濃縮が必要とされるが、60%に達していれば最終段階への移行は極めて容易だとされる。
2021年にバイデン政権が発足すると、イランは米国や欧州と間接協議を開始したものの、決定的な突破口は見いだせないまま、2025年に再びトランプ政権が誕生した。
トランプ大統領はかねて、2015年の核合意がミサイル開発問題を事実上棚上げし、イランに過度に有利な内容だと批判してきた。このため、イランのミサイル開発計画が、今後の核協議の最大の焦点となる可能性が高い。
その点で、今回メヘル通信が伝えたエスラミ原子力庁長官の発言は、ミサイル問題に一切触れず、60%濃度の濃縮ウランの希釈という核分野のみを交渉カードとして提示している点が注目される。
イランは昨年初めの時点で、60%濃度の濃縮ウランを約200キログラム備蓄していたとされ、これは核兵器5発分に相当する量だ。その後、米軍の空爆でナタンズやフォルドゥの核施設が大きな被害を受けたが、米国や国際原子力機関(IAEA)も、既存の濃縮ウランがどの程度残存しているかを正確には把握できていない。
イランが60%濃度ウランの放棄に言及する背景には、神権体制維持のために経済制裁解除を最優先する一方、核問題を取引材料にして、ミサイル開発への制約を回避しようとする戦略が透けて見える。
現在イランには、米国の制裁に加え、核合意6か国のうち英国、ドイツ、フランスの欧州3か国が合意違反を正式に認定したことを受け、国連安全保障理事会の対イラン制裁が再開されている。イランが言う「すべての国際制裁の解除」とは、これら一連の制裁を指している。
















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