
ウクライナでは、ロシア軍がここ数か月、進軍速度は遅いままでも南部と東部で領土を広げており、米国が仲介する和平協議でロシア側が優位に立つ可能性がある。米紙ニューヨーク・タイムズが10日(現地時間)に報じた。
ロシア軍は1年以上にわたり、戦場で都市の拠点を1か所も制圧できないまま、消耗戦を続けてきた。それでも、戦況はロシアにとって転機に近づいているという。軍事専門家や独立系の戦場監視団は、ロシアが今後数週間から数か月のうちに、戦略上重要な3地点を掌握する可能性が高いとみている。
制圧が迫っているとされるのは、南東部ザポリージャ州のフリャイポレと、そこから北東に約100km離れたドネツク州のポクロウシク、ミルノフラードである。ロシア軍がこれらを押さえれば、追加攻勢に向けた兵たん拠点を得るうえ、和平交渉でも新たな交渉材料を手にすることになる。
もっとも、専門家の見立てでは、たとえ3地点を制圧しても進軍が急加速するとは限らない。ロシア軍の前進はこの1年、極めて遅かったためだ。ただ、ロシア側は、ウクライナがこれ以上の流血を避けるため、現時点で領土の一部を譲歩した方が得策だと主張しやすくなる。
ロシア軍、南部攻勢を強化
ロシア軍は南東部ザポリージャ方面で特に脅威が大きい。フリャイポレは、数年にわたり南東部戦線の一角を支えてきたが、ロシア軍が市域の大半を掌握したとも伝えられる。戦前人口が約1万2,000人だった同市は、州都ザポリージャと並び、ウクライナ側が保持してきた拠点だった。
フリャイポレの先には平坦な地形が広がり、ウクライナ軍が身を隠して防御したり、ロシア軍の前進を阻んだりできる障害物が少ない。フリャイポレから西へ約65kmのザポリージャは鉄鋼産業で知られ、人口は約70万人に上る。ロシア軍は現在、ザポリージャの南約25kmまで接近しているとされる。
専門家は、ロシア軍がさらに前進すれば、ザポリージャが小型ドローン攻撃の射程に入る恐れがあるとみる。そうなれば、住民は常時攻撃の危険にさらされかねない。ロシア軍がザポリージャ近郊まで迫った背景には、ウクライナ軍が隣接するドネツク州の都市防衛に兵力を厚く配したことで、南東部の防衛線が手薄になった事情があるという。
ただ、ウクライナ軍は他の地域でも厳しい局面に直面している。
ドネツク全域制圧へ有利な局面か
ウクライナ側はドネツク州の大都市ポクロウシクとミルノフラードの防衛に注力し、多数の兵力と精密なドローン戦術でロシア軍の進撃を大幅に遅らせてきた。米戦略国際問題研究所(CSIS)によると、ロシア軍はこの1年半、2都市の攻略を続けながら、前進は1日あたり約70mにとどまった。第一次世界大戦期の連合軍より遅い水準だという。
さらに、ロシアが2024年以降に占領した地域は、ウクライナ領土の1.5%未満に収まっている。CSISは、ロシア軍が昨年、主にドネツク州の2都市攻略で死傷・行方不明者を約41万5,000人出したと推計する。2022年2月の侵攻開始以降の死傷者は約120万人に達し、ウクライナ軍の2倍規模だとみられている。
それでもロシアは、兵力補充を続けながら消耗戦でウクライナを疲弊させられると判断しているという。専門家は、ロシアがポクロウシクとミルノフラードを完全に掌握すれば、道路や鉄道を活用して兵たん能力を高められるとみる。すでに約4分の3を押さえたとされるドネツク州全域の制圧に向け、足場が固まるとの見立てだ。
次の標的はコスチャンチニウカ
ロシア軍の次の目標は、2都市から約40km離れたコスチャンチニウカになる可能性が高いとされる。同市はドネツク州の最終防衛線の南側に位置する要衝で、ここが陥落すれば北側の多くの都市がロシア軍ドローンの射程に入りかねない。ロシア軍は都市を結ぶ主要道路にも近づけるようになる。
ロシア軍は昨年、コスチャンチニウカを部分的に包囲した状態で冬を迎え、その後、侵入を試みながらウクライナ軍の補給路への攻撃を始めた。ウクライナ側の指揮官は、接近が危険になったため、補給任務の多くを無人の遠隔操縦車両に切り替えていると語ったという。
ロシア軍がさらに前進すれば、ウクライナは外交面でも圧力を受けやすくなる。ドナルド・トランプ大統領が、戦闘回避のために領土を譲るべきだとするロシア側の主張に同調しているためだ。













コメント0