便器・調味料・洗剤メーカーが支える半導体産業

便器を製造する企業がAI半導体分野に800億円を投資する。日本を代表する衛生陶器メーカーのTOTOだ。半導体メーカーではない企業が、なぜこれほど大規模な投資を行うのだろうか。
答えは便器にある。TOTOは便器や洗面台を手がける中で、長年にわたり高純度のセラミック技術を磨いてきた。高温でも変形が少なく、不純物がほとんどないこの技術は、半導体ウエハーを固定する重要部品「静電チャック(ESC)」の生産へとつながった。
人工知能(AI)のデータセンター建設競争が本格化し、静電チャックの需要も急速に伸びている。これを受けてTOTOは、今後5年間で半導体製造装置向け部品事業に800億円を投じ、次世代の1ナノ級プロセスに必要な部品の開発にも乗り出すという。
実績を見ると理由がさらに明確になる。日本経済新聞によると、半導体関連部品を担うTOTOの新規事業部門は昨年、売上高674億円、営業利益289億円を記録した。売上高に占める割合は1割程度だが、営業利益への貢献は半分を超える。半導体部品は今や、会社の収益を支える主力事業へと育った。
TOTOだけの話ではない。国内最大の食品メーカーである味の素は、AI半導体のパッケージ向けの絶縁素材「ABF(味の素ビルドアップフィルム)」で、事実上の独占企業だ。社名を冠した製品名が、そのまま業界標準のように使われているほどである。

「ビオレ」や「アタック」で知られる生活用品メーカーの花王は、半導体製造工程向けの超精密洗浄剤を生産している。さらに、クレパスでおなじみのサクラクレパスは、生産現場で使う産業用の特殊マーカーを供給する。調味料メーカーや洗剤メーカー、文具メーカーが、AIサプライチェーンを支える重要な役割を担っているのである。
日本は長年にわたり、素材・部品・製造装置分野で強みを発揮してきた。スマートフォンやテレビの市場では韓国や中国に後れを取ったものの、製品づくりに欠かせない素材や部品の分野では高い競争力を維持してきた。AI時代の到来により、こうした強みが改めて注目されている。
調味料の研究で培った化学技術は半導体の素材になり、便器づくりで磨いたセラミック技術は半導体の部品になった。洗浄技術は半導体製造工程へ、筆記具開発で培った技術は産業用マーカーへと展開されている。
AI産業の主役はエヌビディアやTSMCかもしれない。しかし、そのAI半導体を生み出す工場では、調味料メーカーが開発した素材や、便器メーカーが製造したセラミック部品、洗剤メーカーが生み出した化学製品が重要な役割を果たしている。
AI時代の日本の製造業の底力が、意外な分野で改めて存在感を示している。













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