
「ハードウェアだけでは十分ではない。ハードウェアの上に知能を載せられるかが勝敗を分ける」
5月20日、東京都港区のザ・プリンス パークタワー東京で開催された「Hitachi Physical AI Day」。基調講演に立った日立製作所代表執行役副社長の阿部淳氏は、AIを企業の技術や業務、人材、運営方式そのものを変える転換点と位置付け、こう述べた。生成AIがデジタル空間の情報を処理する段階を超え、工場や鉄道、発電所など現実世界を認識し判断・行動するフィジカルAI時代に入っているとの診断だった。16日、政府と産業界はフィジカルAIを国家レベルの成長戦略として具体化した。ジェンスン・フアンNVIDIA最高経営責任者(CEO)は日本を直接訪れ、富士通、ファナック、安川電機、川崎重工業など日本の代表的製造企業とフィジカルAIの協力計画を発表した。
製造業でAI勝負
政府の戦略は大きく3つの柱で構成される。まずAIコンピューティングインフラの拡充だ。経済産業省は次世代画像処理半導体(GPU)を大規模に確保し、企業が高性能AIを学習・活用できる環境を構築する計画だ。
次に産業特化型基盤モデルの開発だ。製造と物流、建設などの産業データを共同学習させる国産AIモデルの開発が核心だ。最後は産業現場への適用だ。工場の自動化や物流、医療、建設、自律移動体などでAI活用を拡大し、労働力不足と生産性の停滞を解決することを目指す。経済産業省は先月発表した「AIロボティクス戦略~社会実装を加速し、巨大市場を切り拓く~」で製造業をはじめ、物流・建設・医療・農業・エネルギーなど17の産業をAI革新対象として提示した。AIとロボティクスの普及を通じて2040年までに約370兆円の経済効果を創出することを目指す。
日本がフィジカルAIを国家戦略として掲げたのは単に新しいAI技術を育成するためではない。少子高齢化による労働力不足と生産性の停滞を解決しつつ、製造競争力をAIと結びつけようとする産業政策だ。アメリカと中国が汎用生成AI競争を主導する中、日本は製造現場で蓄積したデータとロボット技術を前面に出し、差別化されたAIエコシステムを構築するという戦略だ。
ノエトラ・NVIDIA・製造企業の「日本式AI」
この戦略を実行する核心は、16日に公式発足した「ノエトラ」である。AIスタートアップというより国家主導の産業AIコンソーシアムに近い組織で、ソフトバンクをはじめソニーグループ、ホンダ、NEC、三井住友銀行など44社が参加する。製造・金融・通信・モビリティなどの産業データを共同活用し、産業特化型基盤モデルを開発することが目標だ。政府は今後数年間で最大1兆円を投入し、AIコンピューティングインフラを構築し、2027年に産業特化型基盤モデル、2031年にフィジカルAIプラットフォームの構築を推進する計画だ。
ノエトラが産業データをつなぐなら、NVIDIAはフィジカルAI実現に必要な核心技術を提供する。最新のGPUとロボット開発プラットフォーム「NVIDIA Isaac Sim」、産業用デジタルツインプラットフォーム「NVIDIA Omniverse」を供給し、製造現場を仮想空間でまず実現・検証した後、実際の工場に適用するAI学習環境を構築する構想だ。
富士通はファナック、安川電機、川崎重工業と共同で製造業全般で活用できるフィジカルAIプラットフォームを開発する。異なる製造業者の産業用ロボットが単一のAIプラットフォームで協力することが核心だ。年内にプラットフォームを公開し、製造現場での実証を経て物流や医療などへの適用範囲を拡大する計画だ。
企業別の実証も本格化している。ファナックはAI基盤の自律作業技術を、安川電機は多品種少量生産用AI生産システムを開発中だ。川崎重工業は造船所の生産ライン自動化を推進しており、トヨタはウーブン・シティでNVIDIA技術を活用した次世代モビリティと交通インフラの実証を行う予定だ。
「ハードウェア強国」を超えてAIプラットフォーム国家に転換?
ただし製造業とロボット技術が強いという理由だけで日本がフィジカルAIを国家戦略に位置付ける理由は、単に新技術を育成するためだけではない。
国際文化会館地経学研究所・経営主幹・新興技術グループ長の塩野誠氏は最近の報告書で「今が日本企業がハードウェアを超えてフィジカルAIのバリューチェーンで意味のある役割を確保できる最後の機会かもしれない」と診断した。フィジカルAIの付加価値がハードウェアから基盤モデルに移行する中、日本はアメリカと中国に比べてコンピューティング資源とリスク資本、研究人材が不足しているという。彼は製造データを競争力に転換するにはAI学習環境への投資と企業間データ共有基盤を整備する必要があると指摘した。
政府もこれらの限界を克服するためにAIインフラと基盤モデルの構築を推進し、ノエトラを中心に産業データとグローバルAI企業をつなぐエコシステムの形成に取り組んでいる。
結局、日本は生成AIでアメリカと中国を正面から追撃するのではなく、製造競争力をAIと結びつける道を選んだ。製造データと現場経験を基にフィジカルAIの主導権を確保しようとする日本の実験が労働力不足と生産性の停滞を突破する新しい産業モデルとなるか注目される。















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