「10分で360人超が死亡」...写真を撮れば“スパイ”、恐怖に沈むレバノンの現在
「停戦の死角」となったレバノンソ・ボボム特派員 現地ルポ

25日(現地時間)、レバノン・ベイルートのラフィク・ハリリ国際空港のターミナルを出ると、イスラエルの偵察ドローンが発する「ブーン」という音が聞こえてきた。
空港から車でベイルート市内へ向かう道路沿いでは、空爆によって鉄骨がむき出しになった建物を覆うため、粗雑に張られた布が風にはためいていた。割れたガラスだけが窓枠に鋭く残っている建物も多かった。
アラビア語で「ルブナン・アウワラン(レバノン・ファースト)」と書かれた横断幕には、焼け焦げた跡が残っていた。米国の空爆で死亡したイランのアリ・ハメネイ前最高指導者を追悼する、親イラン武装組織ヒズボラの横断幕をレバノン政府が撤去し、別のものに交換したところ、何者かが焼き払ったという。
街の至る所では、武装したレバノン政府軍の兵士が警戒に当たり、道路には検問所が設けられていた。

イスラエルとヒズボラの衝突を終わらせるための合意が先月、米国の仲介によって締結された。しかし、街に残る数々の傷痕は、レバノンでは戦争が今も終わっていないことを物語っていた。
レバノン問題は、イラン戦争の終結に向けた協議において、「ホルムズ海峡」「イランの核開発計画」と並ぶ主要な争点の一つとなっている。
米国とイランが苦 労の末に停戦で合意しても、イスラエルはレバノン南部を拠点とするヒズボラへの攻撃を理由に、軍事行動を中断しなかった。
ヒズボラを安全保障上の脅威とみなすイスラエルが攻撃を続けるたび、イランは「合意違反だ」と反発し、停戦は揺らいだ。レバノンで衝突が続く限り、戦争終結は困難だとの見方も相次いだ。
街に並ぶヒズボラ戦闘員のポスター…撮影すると「イスラエルのスパイか」
レバノン国営通信などによると、イスラエル軍は24日、レバノン南部のアル・マンスーリ地区を空爆した。
その前日には、ナバティエで救急車が攻撃を受け、医療従事者2人が負傷した。レバノン保健省は「国際法と人道上の規範に対する露骨な違反だ」と非難した。
イスラエルは合意締結後も、レバノンへの散発的な空爆を続けている。
ベイルートで会った現地在住者は、「ここにはまともな防空システムがありません。空爆前に警報サイレンが鳴って避難するのではなく、爆発音が聞こえて初めて空爆があったことに気づくのです」と話した。

街を撮影しようとしただけでスパイ扱い
ベイルート市内のトンネルは、完全な暗闇に包まれていた。電気が一切通っておらず、最低限の照明さえなかった。
この日訪れたベイルートのバシュラ地区を襲った、4月のイスラエルによる大規模空爆の作戦名も「永遠の暗闇」だった。
当時の爆撃で倒壊した12階建てのビルの跡地は、かつてそこに建物があったとは想像できないほど変わり果てていた。山のように積み上がったコンクリートのがれきからは、白いほこりが舞い上がっていた。残された空き地には、住民が使用していたとみられる生活用品が無造作に散乱していた。
4月7日、米国とイランは2週間の停戦に合意した。しかし、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は「合意にヒズボラは含まれていない」と主張し、翌8日に「永遠の暗闇」作戦を開始した。
わずか10分間でレバノン全土の100か所以上を同時に攻撃した空爆により、360人以上が死亡し、1,000人余りが負傷した。
イスラエル軍は、2月28日に米国とともに戦争を開始して以降、最大規模の攻撃だったと説明した。レバノンではこの日を「黒い水曜日」と呼んでいる。
バシュラを含むベイルート中心部も、ヒズボラの司令施設や武器貯蔵庫などが密集している地域とされ、集中的な攻撃対象となった。
この地域で生まれたという中年男性は、「当時、ミサイル攻撃の現場を直接目撃しました」と語り、「驚かないでください。この辺りはほとんどがこのような状態です」と話した。

向かい側の建物の壁にも、ヒズボラの紋章とともに、戦闘で死亡した隊員らの写真が何枚も掲げられていた。
壁や周辺の街並みを撮影しようとすると、一人の男性が近づいてきて声を荒らげ、「何をしている。なぜ殉教者の写真を撮るんだ」と言い、携帯電話を取り上げた。
その声を聞いた周囲の男性らも集まり、「スパイなのか。目的は何だ」「倒壊した建物を撮るふりをして、俺たちの姿も撮っただろう」と興奮した様子で詰め寄った。
結局、バシュラ地区で撮影した写真をすべて削除した後、ようやく携帯電話を返してもらうことができた。
現地事情に詳しい関係者によると、ヒズボラの隊員は身元が明らかになることに極めて敏感だという。
イスラエルが送り込んだ情報提供者や協力者を通じて身元が特定されれば、暗殺につながる恐れがあるためだ。隊員の身元は、通常、死亡した後になって初めて公開されることが多いという。
戦争長期化で宗派対立の兆しも
先月17日に米国とイランが締結した戦争終結に関する了解覚書(MOU)の第1項には、レバノンにおける軍事作戦の終了と領土保全が明記されている。
しかしイスラエルは、「MOUは米国とイランの二国間合意にすぎない」として、ヒズボラへの攻撃を継続する立場を崩さなかった。
イスラエルが戦争終結の障害として浮上すると、米国が仲介に乗り出した。イスラエルとレバノンは先月26日、イスラエルとヒズボラの武力衝突を終わらせるための和平基本合意に署名した。
米国を含む3者合意に基づき、レバノン南部ではイスラエル軍が撤退し、レバノン政府軍の配備が始まった。

しかし、ヒズボラは合意に反発している。イスラエル側も、軍事的に優勢なヒズボラをレバノン政府軍が統制できるとは考えていない。
イランとの交渉を中断できない米国に促され、ひとまず合意には至ったものの、イスラエルによる散発的な攻撃が続くなか、衝突再燃の火種は依然として残っている。
イスラエルは、自国領土に近いレバノン南部のヒズボラを排除すべき対象とみなしている。イラン政権の崩壊という戦略的目標を達成するためにも、イランの支援を受けるヒズボラを弱体化させる必要があると考えている。
戦争が長期化するにつれ、レバノンの人口をほぼ3分するキリスト教徒、イスラム教スンニ派、シーア派の間でも、対立と相互不信の兆しが現れ始めた。
バシュラ地区は、イランと同じシーア派住民が多く暮らすベイルート郊外のダヒエ地区に近い。
以前は、ダヒエ地区やレバノン南部のシーア派住民がキリスト教徒の居住地域へ避難するケースが多かった。しかし最近では、一部のキリスト教徒が避難の受け入れを拒む事例が増えているという。
イスラエルが空爆の範囲を拡大するなか、一部住民の間で「ヒズボラと関われば、自分たちも攻撃対象になりかねない」との危機感が高まっているためだ。
ダヒエ地区出身の匿名のシーア派住民は、「最近、シーア派の居住地域に対するイスラエルの爆撃がさらに激しくなりました」と話した。
さらに、「ダヒエに自宅がありますが、4月の大規模空爆の際は怖くて家に戻れず、数か月間、会社で寝泊まりしていました」と明かした。




















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