
映画『インターステラー』で観客の目を引いたものの一つは、巨大ブラックホール「ガルガンチュア」の姿だ。物理学者のキップ・ソーンが監修し、科学的根拠に基づいて再現されたその姿は、物語の核心を担う。ガルガンチュアは太陽質量の1億倍に達する超大質量ブラックホールであり、その強大な重力は周囲の惑星「ミラー」の時間をも遅らせる。
しかし、実際の観測データと照らし合わせると、映画の描写にはいくつかの意図的な違いがある。例えば、ブラックホールが周囲の物質を飲み込む際に形成される「降着円盤」や、強力な磁場によって物質が噴出される「ジェット」の描写だ。
太陽質量の400万倍を超える我々の銀河系中心のブラックホールでさえ巨大な降着円盤とジェットを持つため、それより遥かに巨大なガルガンチュアは本来、より凄まじいエネルギーを放出するはずだ。しかし、それでは宇宙船も惑星も存在できなくなるため、映画ではあえて「物質の供給が極めて少ない、貧弱な降着円盤」という設定が採用されている。
一方で、最新の天文学は、降着円盤以外にも宇宙船を脅かす強力なエネルギー源が存在することを示唆している。最近、天文学者たちはブラックホールを取り囲むドーナツ状の塵の構造体「トーラス」が、予想以上に強力なエネルギーを放出していることを発見した。
サウスカロライナ大学のエンリケ・ロペス・ロドリゲス率いる研究チームは、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)を用い、地球から約1,300万光年離れた「コンパス座銀河」の中心にあるブラックホールを詳細に観測した。このブラックホールは太陽質量の約110万〜170万倍と、ガルガンチュアに比べれば小規模だが、周囲に強烈な赤外線を放っている。
これまでの定説では、ブラックホール近傍の強力な赤外線は、主に降着円盤から流出する超高温物質に起因すると考えられてきた。しかし今回の観測により、赤外線エネルギーの約87%が降着円盤ではなく、その外側の「トーラス」から放出されていることが判明した。トーラスは単なる物質の「待機場所」ではなく、自身の摩擦によって自ら強力なエネルギーを放つ活動的な構造体だったのだ。
もし現実の宇宙船がこのようなブラックホールに接近すれば、降着円盤にたどり着く前に、トーラスの放つ強大なエネルギーによって大破する可能性が高い。
もちろん、映画はドキュメンタリーではない。科学的正確性よりも、観客を物語に没入させることが優先される。降着円盤の描写を抑え、トーラスの脅威を省いたとしても、それが映画としての完成度を高めるのであれば「映画的許容」として正解と言えるだろう。むしろ、こうした最新の科学的知見を知ることで、我々は映画をより深い視点から楽しむことができるのである。













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