
ドナルド・トランプ米大統領は21日(現地時間)、世界経済フォーラム(WEF)で、米国によるグリーンランド併合に反対していた欧州8カ国に対する関税措置の方針を撤回し、グリーンランドをめぐる武力行使の可能性についても否定した。欧州との対立が激化する局面で一歩引いた形となったトランプ氏の判断については、米国の次世代ミサイル防衛構想「ゴールデンドーム」や鉱物資源をめぐる一定の成果を得たことが背景にあるとの見方が出ている。
トランプ氏はこの日、約70分間にわたる演説の中で「グリーンランドの完全な所有権(ownership)」を求め、「過去数十年にわたり米国がヨーロッパに対してしてきたことに比べれば、これは極めて小さな要求(very small ask)だ」と述べ、グリーンランドへの関心を改めて示した。一方で、「武力を行使するつもりはない」と明言し、ヨーロッパ諸国と「即時の交渉」を進めていることも明らかにした。さらに、「もし過度な力や強圧を用いないと決めれば、何も得られない可能性がある」と述べつつ、「正直に言えば、そうした手段を取れば誰も止められないだろうが、私はそれを選ばない」と語り、武力行使を改めて否定した。
トランプ氏はまた、演説から約4時間後、自身のSNSでヨーロッパ8カ国に対する関税課税方針を撤回する考えを明らかにした。投稿では、マルク・ルッテ北大西洋条約機構(NATO)事務総長と「非常に生産的な会談」を行い、グリーンランド問題をめぐって「和解の枠組み(framework)」を構築したと説明した。その上で、「この理解に基づき、2月1日に発効予定だった関税は課さない」とした。トランプ氏がグリーンランドへの武力行使の可能性や関税課税という圧力手段を相次いで引き下げたことで、米欧間の全面的な衝突はひとまず回避された形だ。一方で、こうした姿勢転換の背景には、グリーンランドにおける鉱物資源の採掘権確保や、ゴールデンドームへの協力を引き出せるとの判断があったとの見方も出ている。
トランプ氏は演説後、米経済メディア「CNBC」のインタビューで、北大西洋条約機構(NATO)と取りまとめたグリーンランドをめぐる和解の枠組みに、米国および欧州の同盟国による鉱物資源の採掘権へのアクセスや、ゴールデンドームへの協力が盛り込まれていると明らかにした。「彼ら(ヨーロッパ)はゴールデンドームに参加し、鉱物採掘権にも関与する。それは我々も同じだ」と述べた。さらに、この和解の枠組みがどの程度の期間維持されるのかとの質問に対し、「永遠に(Forever)」と答えた。
トランプ氏は「CNBC」に対し、NATOと「取引の構想(concept of a deal)」で合意に達したと説明した一方、具体的な内容の公表は避けた。また、グリーンランドに適用されるゴールデンドームをめぐっては「追加の協議が進行中だ」と述べ、「議論が進展すれば、さらなる情報を提供する」と語った。NATOとの交渉体制については、J・D・ヴァンス副大統領やマルコ・ルビオ国務長官、スティーブ・ウィトコフ大統領特使らが中心となり、「必要に応じて他の関係者も加わり、交渉の結果は私に直接報告される」と明らかにした。
米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)によると、グリーンランドは世界で8番目に多いレアアース埋蔵量を保有している。レアアースは電気自動車や兵器システム、電子機器などの先端産業に不可欠な資源で、トランプ氏は対中依存を引き下げるため、レアアースの供給網構築を政権の産業政策の中核目標に据えてきた。
ゴールデンドームは、敵国によるミサイル攻撃を宇宙空間で数千基の人工衛星を用いて探知・迎撃する構想で、トランプ氏が大統領選の公約として掲げてきたプロジェクトだ。専門家の間では、レアアースの採掘権確保とゴールデンドームをめぐる協力がNATOとの交渉議題に上ったことで、トランプ氏がヨーロッパへの圧力を一定程度緩めたとの見方が出ている。
グリーンランドをめぐる欧州との対立を通じて、強硬な脅しで相手に圧力をかけ、最終的に譲歩を引き出すという典型的な「トランプ流」の交渉手法が改めて浮き彫りになったとの見方も出ている。
ウクライナ大統領直属の国立戦略研究所に所属する経済専門家、イヴァン・ウス氏は、これについて「非常に高い目標を掲げて圧力をかけ、最終的に自らが望む成果を手にするという、トランプ大統領が好んで用いる戦略だ」と評価した。そのうえで、「多くの実業家が用いる典型的な手法で、賭け金をつり上げることで、双方を中間点での交渉に引き込む狙いがある」と述べた。
米「NBC」は、トランプ氏がグリーンランドについても「完全な領有権」を前面に打ち出し、高率関税をちらつかせて圧力をかけたものの、最終的には米軍駐留の拡大や鉱物資源へのアクセス権の確保、NATOの北極政策への反映といった「中間点」に落ち着く可能性があると分析した。そのうえで、今回の動きは、要求水準を意図的に引き上げたうえで譲歩を示す、典型的な「最初に値段をつり上げ、後から値引きする」交渉パターンに当たるとの見方を示している。
こうした対応の背景には、NATO同盟に亀裂が生じた場合の負担を強く意識したとの見方もある。米国がロシアや中国を牽制するうえで、ヨーロッパとの安全保障協力は不可欠であり、グリーンランド問題を力で押し進めて欧州と深刻な対立に陥ることは、米国自身にとっても大きな損失となりかねない。トランプ政権がグリーンランド併合を強行しようとすれば、米議会はもとより、共和党内からも「NATOの分断は中国やロシアを利するだけだ」として、慎重な対応を求める声が強まったとされる。
市場も、前例のないNATO同盟の亀裂の兆しに敏感に反応した。トランプ氏が関税をちらつかせた発言以降、20日(現地時間)まで欧州の株式市場は2日連続で下落し、米国でも株式、債券、ドルがそろって軟調に推移した。「経済大統領」を自任するトランプ大統領にとって、自身の発言一つで市場が大きく揺れ動く状況は、無視できない重荷となった可能性がある。
トランプ氏が関税をめぐ強硬姿勢を撤回すると、21日のニューヨーク株式市場は再び上昇して取引を終えた。WWMインベストメンツで財務計画およびポートフォリオ分析を担当するディレクターのマシュー・スマート氏は、同日の市場回復について「トランプ大統領がダボスで対立ではなく協力を前面に打ち出した点が重要だ」と指摘した。そのうえで、「突発的な貿易摩擦や地政学的緊張が高まるリスクが後退すれば、リスク資産は安心感を取り戻す傾向がある。この日の値動きは、まさにそれを反映している」と説明した。
















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