イエレン前議長「背筋が凍る」
10か国の中央銀行総裁も連名声明
専門家は「1970年代型の大インフレ」を警戒

ドナルド・トランプ政権が、ジェローム・パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の捜査と起訴を進めようとしていることを巡り、歴代FRB議長や著名な経済学者らが、中央銀行の独立性を損なう試みだとして批判する共同声明を出すなど、波紋が広がっている。共和党や政権内部からも、金融市場への悪影響を懸念する声が出ている。
12日(現地時間)、アラン・グリーンスパン氏、ベン・バーナンキ氏、ジャネット・イエレン氏の元FRB議長に加え、ジェイソン・ファーマン元大統領経済諮問委員会(CEA)委員長、グレゴリー・マンキュー元CEA委員長、ロバート・ルービン元財務長官ら計13人は共同声明を発表し、パウエル議長を標的にした米司法省の捜査を厳しく批判した。声明は、今回の捜査を、検察権を利用して中央銀行の独立性を損なおうとする前例のない試みだと位置付けた。
さらに、制度が脆弱な新興国市場で通貨政策が立案される際の手法に近いとしたうえで、インフレはもちろん、より広い意味で経済全体の機能に深刻な悪影響を及ぼしうると指摘した。そのうえで、法の支配が経済的成功の基盤であり最大の強みでもある米国で、こうした事態が起きてはならないと訴えた。
イエレン前議長は米CNBCのインタビューで、パウエル議長の起訴を進める動きについて「背筋が凍る」と述べ、市場はこの問題を深刻に受け止めるべきだと指摘した。欧州中央銀行(ECB)や英国、カナダなど10か国の中央銀行総裁も連名で声明を出し、パウエル議長への連帯を表明したうえで、中央銀行の独立性は物価安定、金融安定、経済安定の礎だと強調した。

実際、FRBの独立性や金融政策への信認に対する不安が強まる中、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)で取引される2月限の金先物は、取引時間中に一時、前日比3.1%高の1オンス=4,638.2ドル(約73万8,000円)を付け、最高値を更新した。
トランプ大統領がFRBへの影響力を強めれば、1970年代型の大インフレ(グレート・インフレーション)を招きかねないという警告も出ている。ドイツのベレンベルク銀行のエコノミスト、アタカン・バキスカン氏は、深刻なインフレ局面でも政権の圧力に屈して金融緩和を続けるような事態になれば、1970年代に起きた最悪のシナリオに近い結末になり得ると指摘した。英ケンブリッジ大学の経済学者ジャグジット・チャダ氏も、世界にはドル建て資産が膨大に存在するとしたうえで、ドルのインフレを抑えられなければ、それら資産価格も押し上げられる可能性があると述べた。
トランプ大統領が「起訴」という強硬策を持ち出した背景には、パウエル氏をFRB議長職だけでなく、政策金利の決定で投票権を持つ理事の地位からも退かせる狙いがあるとの見方がある。パウエル氏の議長としての任期は5月に満了し、理事としての任期は2028年まで残る。トランプ大統領は11月の中間選挙を前に政策金利の引き下げを望んでいるが、パウエル議長は、現在の政策金利は中立金利の水準にあり、追加の利下げは雇用や物価などのデータを踏まえて判断する考えを示してきた。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、両者の対立は金利問題にとどまらず権力を巡る争いに発展したと分析した。FRBを誰が掌握し、誰が統制するのかという根本問題になったという位置付けで、今回の捜査は、次のFRB議長が誰であっても政権の意に反して動けば同様の目に遭いかねないという「見せしめ」のメッセージになり得るとも論じた。
一方、政権や共和党内には逆風を警戒する声もある。スコット・ベッセント米財務長官は、パウエル議長を巡る捜査が状況を混乱させ、金融市場に悪影響を及ぼしかねないとの見方をトランプ大統領に伝えたと報じられた。上院銀行委員会のジョン・ケネディ上院議員は、捜査は金利を下げるどころか市場不安を招き、かえって金利を押し上げる恐れがあると懸念を示した。トム・ティリス上院議員も、法的問題が完全に決着するまで、後任議長候補の承認に反対票を投じる考えを明らかにした。













コメント0