
米最高裁が国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく関税措置を差し止めたことを受け、トランプ政権は通商法122条の適用に乗り出した。だが、経済学者や通商法の専門家は、この条文の発動要件である「国際収支(Balance of Payments)の赤字」が現在の米国には当てはまらないと指摘している。
トランプ大統領は、通商法122条がIEEPAよりも強力な権限を政府に与えると主張するものの、条文が求める「深刻な国際収支赤字」が存在しない点が大きな問題とされる。米国の貿易収支は数十年にわたり赤字が続いているが、外国からの資本流入(資本収支の黒字)がこれを相殺しており、全体としての国際収支は事実上均衡(ゼロ)に近い状態にある。
BCAリサーチのチーフ・ストラテジスト、ピーター・ベレジン氏は、「米国のように変動為替相場制を採用する国では、持続的な国際収支赤字は生じにくい」と指摘する。また、ケイトー研究所のアラン・レイノルズ氏も、「貿易赤字は資本収支の黒字によって賄われるため、新たな輸入関税を正当化するような国際収支赤字は存在しない」との見解を示した。
専門家の間では、通商法122条は事実上、死文化した条項だとの見方が強い。National Taxpayers Union(NTU)のブライアン・ライリー氏は、この条項はドルの価値が金に固定されていた約50年前の固定為替相場制の時代にのみ意味を持っていたと説明する。当時は外貨準備の不足が深刻な危機につながり得たが、1973年に変動為替相場制が導入されて以降は市場が為替を自律的に調整するようになり、この条項は事実上機能しなくなったという。
結局のところ、トランプ大統領が通商法122条の適用を急いだのは、「通商法301条(不公正貿易慣行の調査)」や「通商拡大法232条(国家安全保障)」に基づく関税が正式に確定するまでの空白期間を埋めるための“時間稼ぎ”との見方が支配的だ。301条に基づく調査は完了までに少なくとも2~3か月を要するとされる。
JPモルガン・チェースのアナリストは、今後数か月間は貿易をめぐる不確実性が極めて高まると予測する。最終的に平均関税率は9~10%前後に収れんする可能性が高いものの、その過程では多数の訴訟や政策の揺れが続くとの見通しを示した。ホワイトハウスは新たな関税案でも自動車やコーヒー、電子製品などに対する既存の免除措置を維持すると発表したが、法的根拠の弱さから、再び大規模な訴訟合戦に発展する可能性が高いとみられている。













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