「13年の交渉人に直前講習で挑んだ」—トランプ流外交、停戦“3週間で破綻”

2013年、スイス・ジュネーブではイラン核問題を巡る交渉が行われていた。当時、イラン交渉団の中核を担う実務者だったイランのアッバス・アラグチ外相は、現在も米国のドナルド・トランプ政権との交渉に臨んでいる。2015年にバラク・オバマ政権とのイラン核合意(JCPOA)をまとめたアラグチ外相は、2013年から13年にわたり核交渉を担当してきたベテランである。
一方、米国側の交渉実務を主導したのは、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏と、ニューヨークの不動産開発業者出身で、トランプ大統領の長年の友人でもある米国のスティーブ・ウィトコフ中東担当特使だった。両氏はいずれもトランプ大統領から絶大な信頼を寄せられる側近だが、核兵器やウラン濃縮、国際的な査察・検証体制など、高度な専門知識を必要とする核交渉の経験は事実上皆無だった。
イラン革命防衛隊は7月11日、ホルムズ海峡を再び封鎖すると宣言した。米国とイランの停戦合意は締結からわずか3週間で事実上破綻し、その後の核交渉も始まらないままとなったことから、ワシントンでは今回の事態はある程度予見されていたとの分析が出ている。10年以上にわたり同じ議題と交渉の作法を扱ってきたイランのベテラン交渉団に対し、米国は外交や核不拡散の専門家ではなく、大統領側近を前面に立たせたためだ。
トランプ政権内では、イランとの最終的な核合意に至る可能性を、すでに低く見る空気が強まっていると伝えられる。核交渉に比べて相対的に単純な課題であるホルムズ海峡の航行問題さえ解決できない以上、次の段階となる高濃縮ウランの処理や、核開発計画の長期的な制限を盛り込んだ最終合意は、さらに困難になるとの見方が強まる。
米国が現在問題視しているのは、停戦合意の第1段階に盛り込まれたホルムズ海峡の通航保障が、適切に履行されていない点にある。イランは、商船が自国の指定した航路に従わなかったとして船舶を攻撃した。米国はこれを合意違反とみなし、軍事攻撃と制裁を再び強化した。
トランプ大統領も7月8日、6月17日に締結した60日間の覚書(MOU)について「終わった」と宣言した。専門的な核交渉は本格的に始まりもしないまま、その前提となる停戦合意から揺らぐ格好となった。
米国の元交渉当局者らは、根本的な問題は交渉の順序にあったとみている。ホルムズ海峡を巡る問題さえ明確に整理できていない段階で、直ちに核交渉というさらに難しい局面へ進もうとしたことが、決定的な判断ミスだったという。主要な争点を具体的に解決しないまま、宣言的な内容にとどまるMOUだけを締結し、性急に次の段階へ移ろうとしたことへの批判だ。
批判の矛先は、米国の交渉チームにも向けられている。米CNNは「トランプ大統領はクシュナー氏やウィトコフ特使ら少数の側近を中心に交渉を進め、核専門家やキャリア外交官を当初から十分に活用しなかった」と指摘した。核物理学者や制裁の専門家、キャリア外交官が数年にわたって参加したバラク・オバマ政権時代の2015年の核合意と比べ、今回の交渉は進め方そのものがはるかに即興的だったと評価される。
これに対し、イランは2013年のハサン・ロウハニ政権発足後に本格化した核交渉以降、中核交渉陣と経験の継続性を事実上維持してきた。アラグチ外相は2015年のJCPOA交渉でも外務次官兼首席実務交渉官として参加し、米国や欧州による制裁の仕組み、ウラン濃縮の制限、国際的な査察・検証手続きを直接担当した。その後の米国による核合意離脱と制裁復活、欧州との後続協議、ジョー・バイデン前政権時代の間接交渉まで、一連の経緯を熟知してきた。
2015年当時の交渉団で高官を務めたイランのマジド・タフテラバンチ外務次官も、現在、対米核交渉に関与している。2013~2015年の交渉団を率いたイランのモハンマド・ジャバド・ザリフ前外相は現在の実務陣から退いたものの、当時蓄積された交渉戦略や人的ネットワークは、アラグチ外相とタフテラバンチ外務次官を通じて受け継がれている。政権交代のたびに交渉チームが大幅に入れ替わった米国とは対照的に、イランでは同じ人物が交渉経験と戦略を積み重ねてきた点に違いがある。
一方、クシュナー氏とウィトコフ特使は6月のMOU締結を前に、米テネシー州のオークリッジ国立研究所を非公表で訪問し、米国の核専門家から高濃縮ウランの希釈、遠心分離機の作動原理、監視・検証方法などについて説明を受けたという。この動きは皮肉にも、米国の交渉チームが核交渉に必要な専門知識を、交渉直前になってようやく本格的に学び始めたことを示しているとの批判を招いた。
米国内外では、ホルムズ海峡を巡る最初の関門さえ乗り越えられないまま、性急に核交渉へ進もうとしたことが、今回の交渉難航の根本的な原因だとの分析が出ている。13年にわたって同じ交渉陣が経験を引き継いできたイランとは対照的に、専門家ではない側近を前面に立てたトランプ大統領流の交渉は、専門性と準備不足という限界を露呈した。














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