「NISA貧乏」という言葉を聞いたことがあるだろうか。3月10日に行われた衆議院財務金融委員会で、野党第一党の国民民主党・田中健議員が片山さつき財務大臣に質問した際の言葉だ。田中議員は、若者が未来に対する漠然とした不安から明確な人生計画も描けず、自分自身への投資を減らし金融投資にのみ専念している現象を指摘した。
田中議員はさらに「20代は金融投資も必要だが、自分自身への投資、さまざまな経験をする重要な時期だ」と指摘し、「NISA貧乏」現象について片山財務大臣の見解を問うた。これに対し片山財務大臣は「NISA貧乏」という表現に「少しショックを受けた」と答えた後、国民に対する金融教育の必要性を訴えた。

追い詰められる若者たち、「NISA」にオールイン
NISAは「Nippon Individual Savings Account(個人貯蓄口座)」の略称で、2014年に導入された少額投資非課税制度を指す。2023年末までNISAは、20年間で合計800万円までの積立投資の収益を非課税とする「つみたてNISA」と、5年間で合計600万円までの一般投資の収益に対して非課税措置を適用する「一般NISA」の2種類で運用されてきた。通常、株式や投資信託の収益の20%が課税される。
しかし、NISAが2024年に大きく変わり、18歳以上であれば誰でも保有期間の制限なく、生涯で1,800万円まで非課税メリットを受けられるようになった。政府が個人の投資を促進する観点から制度を修正し非課税要件を拡大したことで、資産形成に関心のある若者を中心にNISA加入者が急増している。物価上昇が続く一方、賃金上昇率がこれに追いつかず実質賃金が減少するなか、資産形成の必要性を痛感する若者は後を絶たない。金融庁によれば、2025年6月時点で20代の人口約1,270万人のうち、4分の1にあたる313万人がNISA口座を保有している。
所得から最低生活費を除いた金額を毎月NISAに積み立て、食費や娯楽費はもちろん教育費、文化費など「自己投資費」まで犠牲にしながら投資額を増やし続ける若者が目立っている。そのため積立残高は膨らんでいるが、日常生活が次第に苦しくなっている人々を指す「NISA貧乏」という表現が国内で新たに注目を集めている。
「NISA貧乏」現象が同委員会で社会問題として取り上げられた後、主要メディアは、年金受給額だけでは老後の備えが難しくNISAを始めたという若者の声、NISA積立額を増やしすぎてクレジットカードの支払いができなくなった20代の会社員のケース、アルバイト代をNISAに積み立てて趣味を楽しめない大学生の事例などを相次いで紹介した。
特に主要メディアは、「将来の不安」と「現在の豊かな生活」の間で悩む「NISA貧乏」の若者の姿に焦点を当てている。内閣府が実施した「国民生活に関する世論調査」(2025年度)によれば、「将来に備える方か、毎日の生活を楽しむ方か」という質問に対し、20代の3分の2以上が「貯蓄や投資など将来に備えている」と回答しており、「今の安楽さ」よりも「老後対策」を優先する傾向がうかがえる。
ただし、三菱総合研究所(MRI)の分析によれば、「新NISA」が始まった2024年を境に若者が貯蓄や投資により多くの資産を配分しているという明確な統計上の証拠は見られない。2023年と2025年を比較しても、20代と30代が年収のうち平均17%程度を株式投資や預金に配分する傾向にほぼ変化はないという。
さらに、「NISA貧乏」は本当の「貧乏」ではなく、「NISA貧乏」の状態をあたかも生活苦を経験しているかのように描写し「社会問題化」してはならないという指摘もある。「NISA貧乏」は日常生活で節約しつつ投資を増やす選択をした人であり、生活が厳しくても毎月の収入から一定額を定期的に「投資」に配分できる程度の余裕を持った人だ、とも言える。
20代の25%がNISA口座保有
一方で、専門家からは「新NISA」について異なる指摘も出ている。懸念すべきは「NISA貧乏」の増加そのものではなく、消費の冷え込みと社会格差の拡大だという見方だ。投資を活性化させ経済成長につなげる狙いで導入された「新NISA」によって個人投資が伸びる一方、個人消費が抑制されれば、経済の不均衡と成長力の低下を引き起こす可能性がある。
加えて、格差拡大も懸念されている。生活苦でNISA投資を検討する余裕がない層はそもそも税優遇を受けられない一方、投資する余裕のある層は事実上生涯にわたって税優遇を受け続け、資産形成を有利に進められるといった批判の声も出ている。
これに関連して、政府は18歳未満の未成年者にも600万円を上限にNISA口座開設を認める方針を進めていると報じられている。それにより富裕層家庭では、親や祖父母が子ども名義の口座でNISAに投資し、満12歳以降に教育費として引き出したり、子どもが成人後に基礎資産として活用できるよう備えたりするケースが想定される。こうした活用法により階層間の格差がかえって広がる結果を招きかねないとの声も上がっている。














コメント0