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「酸素のない月でなぜ鉄が錆びるのか?」月の赤鉄鉱と水生成の謎に科学者が迫る!

梶原圭介 アクセス  

 引用:ハワイ大学
 引用:ハワイ大学

2020年、米航空宇宙局(NASA)ジェット推進研究所とハワイ大学の研究チームは、インドの月探査機チャンドラヤーン1号搭載の「月面鉱物マッピング装置(M3)」が2009年に送信したデータを分析した結果、月の極地付近で赤鉄鉱を発見した。赤鉄鉱とは、鉄を豊富に含む鉱物が水または酸素と反応して生成された、いわゆる錆びた鉄鉱物である。

酸素のほとんど存在しない月の岩石から、いかにして錆が生じたのか。科学者たちは、地球に面した月の表面の高緯度地域に赤鉄鉱が集中している点から、地球から飛来した酸素が原因である可能性を推測した。2017年、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、月周回衛星「かぐや」が送信したデータにより、月の表面から100km上空に地球の酸素と同種の酸素イオンが存在することを確認している。

科学者たちの推測を裏付ける実験結果が得られた。中国・マカオ科技大学の研究チームは、水素と酸素イオンを高エネルギーで加速させた地球風(または地球の風)を人工的に作り出し、実験の結果、月の表面へ飛来した酸素粒子が月の鉱物を錆びさせる可能性があることを明らかにし、その成果を国際学術誌「Geophysical Research Letters」に発表した。

地球風とは、地球の最上層大気、すなわち電離層から宇宙空間へ流出する粒子の流れを指す。太陽から高エネルギー粒子が飛来する現象を太陽風と呼ぶのと同様である。地球風を構成する粒子は、原子核と電子が分離したイオン状態、すなわちプラズマである。

 引用:ウィキメディア・コモンズ
 引用:ウィキメディア・コモンズ

これらの粒子は、極地で形成された磁場の一部である「開いた磁力線」に沿って、地球へ戻らず宇宙へ流出する。その理由は地球の磁場の特性にある。地球の磁場は完全な球形ではなく、彗星のように長い尾を持っている。太陽風の影響を受け、太陽側は縮み、反対側は長く伸びる。この現象を「磁気圏尾(magnetotail)」と呼ぶ。地球の直径の数十倍から数百倍に達する磁気圏尾には、太陽風に乗ってきた粒子と、地球上層大気から流出した粒子が混在しており、この長い尾がプラズマ粒子が宇宙へ流出する通路または排出口の役割を果たしている。

しかし、27.3日周期で地球を公転する月は、公転周期のたびに約5日間、地球の磁気尾を通過する。ちょうど満月が出現する頃がそのタイミングである。地球が太陽と月の間に位置する際、月は太陽の反対側に形成された地球の磁気尾内に入る。この時、強力な太陽風の影響から逃れる代わりに、地球の磁気尾内の地球風にさらされる。この風には、水素、酸素、窒素など様々な元素のイオン粒子が含まれており、これらの粒子が月に到達すると、化学反応を引き起こす可能性がある。

 引用:ハワイ大学
 引用:ハワイ大学

研究チームはこの過程を再現するため、人工的に地球風を発生させ、鉄を豊富に含む鉱物にさらした。その結果、酸素と接触した鉱物が赤鉄鉱へと変化することを確認した。また、この赤鉄鉱に水素を接触させると、一部が再び鉄に還元されることも観察された。すなわち、地球風中の酸素が月において赤鉄鉱を形成しうることが実証された。

月の高緯度地域に赤鉄鉱が主に分布する理由について、研究チームは、酸化剤である重い酸素イオンは極地付近で月の表面に降下する一方、還元剤である軽い水素イオンは磁力線に沿い極地域からさらに遠くへ迂回するためであると説明した。

今回の研究は、月の赤鉄鉱に関連する別の謎を解明する可能性も秘めている。月の赤鉄鉱はしばしば水の近くで発見されるが、これまで科学者たちは水が赤鉄鉱の生成に関与していると推測していた。しかし、研究チームは還元実験において副産物として水が生成される現象を発見した。高エネルギー水素を赤鉄鉱に照射すると、酸素が鉄から離れ、水素と結合して水が生成される。このことは、月の赤鉄鉱付近で発見される水が実際には赤鉄鉱の還元過程で生じた副産物である可能性を示唆している。

ただし、今回の研究はあくまで模擬実験であり、実際の月の試料を通じて確認されたものではない。研究チームは今後、月から赤鉄鉱の試料を持ち帰り、その中の酸素が地球風に由来するかどうかを確認する機会が訪れることを期待している。

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