
フィリピン出身の家政婦マリアさん(仮名)は、ドバイのシェイク・ハムダン・ビン・ムハンマド皇太子の実際の顔を盗用した人工知能(AI)ディープフェイクのビデオ通話に心を奪われ、このほど、1年分の貯金をすべて失った。甘いメッセージとビデオ通話の裏には、ナイジェリアの犯罪組織による巧妙な詐欺劇が隠れていた。AI技術を悪用した新種の金融詐欺が世界中で横行する中、技術の発展がもたらす影への懸念が高まっている。
3日(現地時間)、AFP通信によると、マリアさんは最近、あるマッチングアプリで通称「ファッザ」で知られるドバイのハムダン皇太子を装った男性とメッセージのやり取りを始めた。
この男性はリアルタイムのビデオ通話で優しい笑顔を見せ、マリアさんに絶えず愛を告白した。
「皇太子の実際の声とは違ったが」…ビデオ通話にすっかりだまされた
声は実際の皇太子とは異なっていたが、画面の中の口の動きが音声と合っていたため、マリアさんは相手を本物の皇太子だと思い込んだ。
マリアさんは、寝ている時間にもメッセージが途切れなかったと語った。
しかし、画面の中の人物は実際の皇太子ではなく、AI技術で作られた精巧な偽映像「ディープフェイク」だった。
恋心を抱いたマリアさんは、相手の要求通りに婚姻証明書と、いわゆる「王室会員カード」の名目で10万ペソ(約25万円)を送金した。異国で苦労して働きながらためた1年分の貯金が、瞬く間に消えた瞬間だった。
詐欺師の行動はここで止まらなかった。ホテルで会おうと持ちかけ、予約費用として6万ペソ(約15万円)を追加で要求した。そこで不審に思ったマリアさんが相手のソーシャルメディア(SNS)アカウントを詳しく調べた結果、そのアカウントの拠点地域がドバイではなくナイジェリアになっていることを発見した。
マリアさんはすぐに連絡を断った。しかし、すでに金を取り戻す手段はなくなっていた。
ナイジェリアの犯罪組織の仕業…「偽皇太子」詐欺の被害者が続出
調査の結果、今回の事件はナイジェリアに拠点を置く国際犯罪組織の仕業であることが明らかになった。彼らはインスタグラムのフォロワーが1,700万人を超えるドバイ皇太子の高い知名度と大衆的な好感度を犯罪に悪用した。
犯罪組織は、皇太子が自ら書いた詩をまねて被害者に送る手口を使った。
彼らはソーシャルメディア(SNS)の投稿を通じて、利用者をワッツアップやテレグラムなどの個人メッセンジャーのチャットルームに誘導した。チャットルームには、皇太子が片膝をついて指輪を手にしている姿や、バラの花を差し出しながら「愛していると一言だけ言ってほしい」と求める加工画像を投稿し、被害者を惑わせた。
これに対し、詐欺に注意するよう呼びかける一部利用者の警告コメントも寄せられたが、多くの人はこうした警告を無視し、ハートやキスの絵文字を残して歓声を上げた。
被害が増えると、注意を呼びかける動きも出てきた。「偽皇太子にだまされないで」という名前のインスタグラムアカウントが代表的だ。
また、「ファッザ詐欺をなくそう」というタイトルのオンライン請願も登場し、ハムダン皇太子側に、なりすまし被害への注意喚起を強めるよう求めた。この請願には、ドバイの電話番号を利用した詐欺師らが寄付金や婚姻証明書の名目で巨額を要求しており、これらの書類はすべて偽造されたものだという内容が盛り込まれている。さらに、被害者が他国の銀行口座へ、時には追跡が難しい暗号資産で送金を求められるケースもあると請願は指摘した。
世界中で「ロマンス詐欺」が横行…「真偽を見極めるのが難しくなる」
有名人をかたる、いわゆる「国際ロマンス詐欺」は今回が初めてではない。
昨年フランスでは、ハリウッド俳優ブラッド・ピットを装った詐欺師に、ある女性が83万ユーロ(約1億4,500万円)をだまし取られる事件が発生し、警察が捜査に乗り出したこともあった。世界詐欺防止連盟(GASA)によると、昨年、世界でこのような金融詐欺により失われた金額は約4,420億ドル(約67兆5,000億円)に達する。
最大の問題は、日々進化する技術によって詐欺の防止がますます難しくなっている点だ。米コーネル大学のデイビッド・ランド教授は「リアルタイムの映像編集技術が恐ろしい速度で進化している」とし、「近い将来、非対面での会話で相手が本物か偽物かを人の目や耳では到底区別できない時代が来るだろう」と警告した。
















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