「残留派も離脱派も命を奪われた」10年越しに映し出された“英国分断の深い傷”

英国の欧州連合(EU)離脱、いわゆるブレグジットを主導した勢力の一員だった英国保守党のアン・ウィデコム元下院議員(78)が、自宅で殺害されているのが見つかった。2016年6月、ブレグジットを巡る国民投票を1週間後に控え、EU残留を訴えていた英国労働党のジョー・コックス下院議員(当時41歳)が男に殺害されてから10年を経て、政治家が犠牲となる事件が再び起きた。ブレグジットを巡って正反対の立場を取っていた女性政治家が10年の間隔を置いて悲劇的な死を迎えたことは、世論の分断と支持勢力の過激化が進む英国社会の危機を映し出しているとの分析も出ている。
英BBCなどの現地メディアによると、ウィデコム元下院議員は9日午前11時40分ごろ、英国南西部ダートムーアにある自宅で、頭部に重傷を負って死亡しているのが発見された。警察は、前日の8日午後0時30分ごろに死亡したとみている。捜査当局は28歳の白人の男を容疑者として逮捕し、事情聴取を進めており、男の身柄は事件現場から300キロメートル以上離れたサウスヨークシャーで確保された。
経済の低迷や物価上昇、安全保障上の脅威などを背景に、英国で「ブレグジット懐疑論」が最高潮に達していた時期に起きた事件だけに、警察は男が政治的な目的で犯行に及んだ可能性についても調べている。ただし、警察は「政治的動機やテロとの関連を示す手掛かりは、現時点では見つかっていない」と明らかにした。
ウィデコム元下院議員は、英国の右派政党「リフォームUK(英国改革党)」のナイジェル・ファラージ党首とともに、EU離脱派を率いた中心人物の一人として知られる。1987年に初当選すると、強硬な保守派として23年間にわたって下院議員を務め、内務担当閣外相や雇用担当閣外相などを歴任した。ブレグジットを巡る国民投票で離脱派が勝利した後もEU離脱の手続きが進まなかったことから、2019年にはファラージ党首が率いていたブレグジット党に合流している。同年、フランス東部ストラスブールで開かれた欧州議会の会議では、「ブレグジットは英国が奴隷状態から解放されるのと同じだ」と語った。英国は2020年、EUから正式に離脱した。
今回の事件を受け、10年前の2016年6月に発生したコックス下院議員殺害事件にも改めて注目が集まっている。二つの事件には、所属政党も政治的立場も正反対の女性政治家が、ブレグジットを巡って国論が二分される中で殺害されたという共通点がある。当時、国民投票を前にEU残留を訴えていたコックス下院議員は、英国北部ウェストヨークシャーで有権者との面談を終えて会場を出たところ、白人至上主義者のトーマス・メア受刑者から3発の銃弾を受けたうえ、刃物で刺されて死亡した。メア受刑者は犯行時に「英国を第一に」と口にし、法廷でも「英国への反逆者に死を。英国に自由を」などと叫んだ。
10年の間隔を置いて起きたウィデコム元下院議員とコックス下院議員の死を巡っては、ブレグジットに対する世論の二極化が背景にあるとの解釈が示されている。EU離脱後も経済状況が改善せず、最近ではEUへの再加盟を求める声が勢いを増すほど、世論の構図は大きく変わった。こうした状況を踏まえ、ウィデコム元下院議員の殺害についても、政治的な動機に端を発した可能性があるとの見方が出ている。




















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