
高市政権が政府の安全保障戦略を定める「安保三文書」の年内改定を進める中、改定案には単なる軍事力の強化にとどまらず、外交、防衛、経済、技術を一体で引き上げる「総合国力」の強化が盛り込まれる見通しだと、読売新聞が28日に報じた。
高市早苗首相は27日、首相官邸で安保三文書改定に向けた初の有識者会議を開き、「冷戦後の比較的安定した国際秩序は、もはや過去のものとなった」と述べた。その上で、「防衛力の抜本的な強化を主体的に進めなければならない」と強調した。
会議では、山崎幸二元統合幕僚長が、ロシアによるウクライナ侵攻が示した最大の教訓として「総力戦」の重要性を指摘し、総合国力の強化を訴えたとされる。現代戦は軍だけで完結するものではなく、防衛産業、エネルギー供給、情報通信、民間企業の技術力、インフラ維持まで含め、国家全体が戦争遂行能力を備える必要があるという認識だ。
◇中国、太平洋まで進出し軍事活動…原子力潜水艦導入推進
政府は2022年に安保三文書を策定した際にも「戦後最も厳しく複雑な安全保障環境」と位置付けていたが、3年を経た現在は情勢がさらに深刻化したとみている。ロシアによるウクライナ侵攻の長期化に加え、米国のトランプ政権によるイラン攻撃、中国の軍事活動拡大など、武力行使が広がっているためである。
とりわけ昨年6月には、中国海軍の空母2隻が西太平洋のフィリピン海まで進出するなど、有事の際に海上で米軍の接近を阻むA2/AD(接近阻止・領域拒否)戦略を、第一列島線から第二列島線へ広げようとする動きが目立っている。このため、日本でも長期的には原子力潜水艦の保有を検討すべきだとの意見が出ているという。
高市政権は今回の安保三文書改定で、「次世代動力」とVLS(垂直発射装置)を搭載した潜水艦の保有を明記する方向で調整している。原潜導入を視野に入れた議論とみられ、小泉進次郎防衛相も昨年末、韓国とオーストラリア、さらに米国や中国の動向を踏まえつつ、潜水艦の新たな動力として全固体電池、燃料電池、原子力などの可能性を幅広く検討すべきだとの考えを示した。

◇日米同盟だけに依存できない…「友好国との協力強化」
政府と有識者はまた、日米同盟だけに依存することはできないとの危機感を共有し、「志を同じくする国々」との連携強化策も議論したとされる。政府関係者の一人は読売新聞に対し、「日米同盟を軸に据えつつ、米国のアジア関与をつなぎ留め、地域秩序を維持するには、日本の役割拡大が不可欠だ」と語った。
主な相手国としては、フィリピンをはじめとする東南アジアの主要国やオーストラリアが想定されている。高市首相は、こうした安全保障協力を進めるため、5月1日から5日までベトナムとオーストラリアを訪問する予定だ。
そして21日、殺傷能力のある防衛装備品も友好国に移転しやすくする制度改正に踏み切った。平時には共同訓練やシステムの相互運用性を高め、有事には相互支援を可能にする「安全保障ネットワーク」の構築を目指している。
さらに、退役した海上自衛隊の護衛艦など中古装備を友好国に無償供与できるよう、法整備にも着手した。装備移転を通じて連携基盤を広げ、地域の抑止力向上につなげる狙いがある。
◇経済安全保障が即「国力」…化学製品も安保物資に
現在、「経済の武器化」にも強い危機感を抱いている。最近の中東情勢では、イランは純粋な軍事力では米国に及ばない一方、ホルムズ海峡封鎖を通じて国際社会に大きな圧力をかけることに成功した。
供給網、エネルギー、原材料を揺さぶることで相手国を追い込める現実が、改めて浮き彫りになった形だ。こうした事態を受け、政府は経済安全保障を総合国力の中核として再構築しようとしている。
政府はこの認識を踏まえ、半導体、重要鉱物、化学製品、エネルギー調達ルートなどを国家安全保障の観点から改めて点検する方針である。中でも石油化学製品は、自衛隊の運用と国民生活の双方を支える重要物資であるにもかかわらず、これまで安全保障上の物資として十分に管理されてこなかったとの反省が出ているという。
会議ではこのほか、AIを活用した指揮統制、ドローンの大量運用、衛星情報のリアルタイム統合、超高速の目標識別と攻撃判断など、先端的な戦争遂行能力の確保も議題となった。今回の会議が従来の安全保障論議と異なるのは、経済やAIの専門家が多数加わった点にある。
衛星や各種センサーから得られる情報を即時に統合し、目標確認から使用する兵器の選定までを迅速に決める米国型の体制を、日本も構築する構想だ。軍事分野に限らず、民間技術を取り込む体制整備も並行して進める考えとみられる。
会議で強調されたのは継戦能力の重要性でもあった。自民党内では「少なくとも年単位で戦争を継続できる備蓄能力が必要だ」との主張も出ており、弾薬の生産能力拡大、ミサイルの大量備蓄、防衛産業の供給網強化を急ぐべきだとの声が強まっている。
先端技術分野では、AIを含む軍民両用のデュアルユース技術の確保が急務だとの認識から、各省庁がスタートアップの技術を試験導入し、5年間で1兆円規模の契約を組成して、民間の革新企業を防衛分野へ呼び込む計画だ。重厚長大な防衛産業中心の構造から脱し、シリコンバレー型の民間イノベーションを安全保障へ結び付ける狙いがある。
高市政権は、こうした取り組みを通じて「防衛と成長を同時に実現する」ことを目指している。安全保障の強化に投資しながら先端技術と産業も育て、それを総合国力の向上へつなげる好循環を築く考えだ。
















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