引用:メルセデス・ベンツ
引用:メルセデス・ベンツ

グローバルプレミアム自動車メーカー、メルセデス・ベンツ。彼らは全く異なる舞台に立った。空を飛ぶ敵ドローンを探知し撃墜する移動式対空防御車両の開発に乗り出した。

ベンツは2026年6月、ドイツ ベルリンで開催された国際航空宇宙博覧会(ILA 2026)でミュンヘンのアンチドローンスタートアップ、タイタンテクノロジーズ(TYTAN Technologies)と覚書(MOU)を締結し、Gクラスとメルセデス・ベンツスプリンターを基にした車両搭載型対ドローンプラットフォームを共同開発することにした。署名式にはカテリーナ・ライヒェ ドイツ連邦経済エネルギー大臣が同席し、「ドイツの技術主権を強化することに寄与する」と評価した。プレミアムブランドが「戦場」を語り始めた。

完成車の「防衛産業ピボット」、ベンツだけのことではない

ベンツの選択は単発のニュースではなく、ヨーロッパの完成車業界全体の方向転換と密接に関連している。電気自動車の需要減少と中国企業に押されてシェアが低下し、余剰生産能力を抱えた完成車メーカーが次々と防衛産業に舵を切っている。

ルノーは2026年1月、防衛企業のTurgis Gaillardと手を組み、フランスで空中ドローンを生産することに決め、フォルクスワーゲンはイスラエルのラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズとアイアンドームミサイル部品生産のためのオスナブリュック工場売却意向書を締結した。同じILAの舞台でラインメタルは大型貨物ドローン生産のMOUを発表した。「余った工場」と「政府が支える景気非循環的売上」という方程式が業界を動かしている。

市場指標もこの流れを裏付けている。市場調査機関マーケッツアンドマーケッツは対ドローン(counter-UAS)市場が2025年に66億4,000万ドル(約1兆739億円)から2030年には203億1,000万ドル(約3兆2,847億円)に年平均25.1%成長すると予測した。背景にはドイツを襲ったドローン騒動がある。

2025年の1年間にドイツで1,000件以上の疑わしいドローン飛行が記録され、ミュンヘン空港は何度も閉鎖され、ドイツ連邦議会は2026年2月にドイツ連邦軍に自国の領空内でドローンを撃墜する権限を付与した。脅威が実在する市場が開かれた。

ベンツは「車体」、タイタンは「武器」

今回の協力の核心は役割分担が明確である点だ。ベンツはシステム統合業者ではなく、ベース車両供給者として参加する。厳しい地形でも耐えるGクラスと積載スペースが広いメルセデス・ベンツスプリンターという「移動するプラットフォーム」を提供する役割だ。実際にドローンを捕らえるレーダー、センサー、標的取得ソフトウェア、迎撃機発射台などはすべてタイタンが搭載する。

車体改造はコーチビルダーのBINZのような専門業者が担当し、発射台を載せるフラットベッドを作ったり、スプリンターを指揮車両に改装したりする。ベンツはロイターに「意図的にシステム統合業者ではなくベース車両供給者として行動する」と線を引いた。ベンツの取締役会で生産・品質・サプライチェーンを総括するミヒャエル・シーベ取締役は防衛産業を「戦略的成長分野」と定義した。

タイタンが持ち込む核心武器は迎撃ドローンMETIS(メティス)だ。この会社は2023年、ミュンヘン工科大学(TUM)の学生プロジェクトとして始まり、3Dプリンティングで製造するAI誘導方式の低価格迎撃ドローンを手がける。敵ドローンに直接衝突するか、至近距離で破片弾頭を爆発させる「運動エネルギーキル(kinetic kill)」方式で、ウクライナ戦場で実戦検証を経た。

タイタンのホームページによると最高速度350km/h、射程25km、上昇限度5,000m、重量6kg、搭載重量1.1kgの仕様で、AIソフトウェアのおかげでオペレーター1人が複数台を同時に管理できる。タイタンは2026年2月、アーミラとNATOイノベーションファンドが共同主導した3,000万ユーロ(約55億円)規模のシリーズAを調達し、累積投資額は約4,600万ユーロ(約85億円)に達し、2025年10月にはドイツ連邦軍から軍施設防御用の開発契約を獲得した。タイタンのミュンヘン工場は今年末までに月3,000台の生産を目指す。

MOUと量産の間、まだ遠い距離

ただし過熱には警戒が必要だ。今回の発表はあくまで覚書であり、量産契約ではない。両社はILAでプロトタイプを披露したが、タイタンの広報担当者はAFPに生産数量とスケジュールがまだ決まっていないと明らかにした。輸出管理と防衛・安全法という規制の壁も協定に条件として付いており、軍用車両は依然としてベンツ全体の販売の1%未満だ。国内外のメディアが「ドローンディフェンダー」という別名で注目したが、実際の公式発表文には別途製品名が登場しないという点も、まだ完成した商品ではないことを示している。

より根本的な疑問も残る。METISはもともと「安く、多く」作って消耗する低価格迎撃機思想から生まれ、マーケティング写真にもピックアップトラックの荷台に発射台を載せた姿が登場する。そんな武器をわざわざ高価格帯のプレミアムSUVであるGクラスの上に載せることが価値があるのかという質問に、両社がどのような答えを出すかが鍵だ。象徴性を超えて実際に「動く車両」としてつながるかどうかは、タイタンのミュンヘン工場の量産実績とこのMOUの契約転換の有無を見守る必要がある。

自動車業界に投げかける疑問

ベンツの選択は他の自動車メーカーにも示唆するところが少なくない。完成車の堅固なプラットフォーム能力と防衛産業スタートアップの先端武器技術を組み合わせる「組立型協業」モデルは、世界最高水準の完成車生産能力を持つ企業にも開かれた道だ。ラグジュアリーの代名詞がハンドルを防衛産業に切ったこの場面は、「自動車会社が何を作る会社なのか」という質問の答えが再び書き換えられていることを示している。

山田雅彦
山田雅彦

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